新しい生活

第21話


この半月ほど、私は女を抱いていない。

いつも抱きたくて抱いている訳ではなく、抱かざるを得ないから抱いてるだけなので、欲求不満になる事はない。


だが。


それはあくまで普段の私、であって、満月の夜の私、ではない。


こういう時の一番の対処法は女を抱く事だ。

何度も何度も、欲を吐き続ければいい。

だが、財布の中に女を買う金はない。


次は走る事。

怒りにまかせて、朝まで走る。

しかし、この森は狭い。

走っている内に誰かに会ったら、と思うとぞっとする。


男なら殺すだろうし、女なら襲うだろう。


完全に狼になれない代わりに、私は彼らよりも人を殺す事に長けていた。

なにしろ狼並みの力があるのだ。

力一杯殴れば、大抵の男は死ぬ。

力任せに女を押さえつけ、己の猛りをその股の間にぶち込む事も出来る。

私は手の中の石に向かって、ミシェル、と話しかけた。


「私はどうすればいいのだろうね?」


だが、ミシェルの声は聞こえてはこない。


当然だ。

幼い頃聞こえていた、と思っていた彼女の声は、私の心の内の声だったのだから。


私は一つ息を吐くと、財布の中に石を戻した。

それをポケットに入れようとして、気付く。

ポケットの中のハンカチに。

今から………


今から走れば、昼過ぎには森を出るだろう。

なにしろ今はいつもより力が溢れているのだから。

私は森を抜けるべく、走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る