第20話


それは私の内にある欲望をなくす為だ、とディーンは言った。


「月の光を浴びると、俺達は意識下にあるはずの色んな欲が顔を出すんだ。んで、暴れる。これをなくすには、普段からその欲を出してやることだ。適度にな。つまり、女を抱けば満月もそう問題にはならないって事だ」

「………これで変身しなくなるんですか?」

「いや。変身はする。だが、暴力的な衝動に突き動かされる心配が減るんだ。だからレムス。俺達は普段から食って、飲んで、抱いて、寝る必要がある」

「それで娼館へ?」

「まぁ、そういうわけだ。食うにも飲むにも女を買うにも金がいる。因みに女が抱けなくなる程年を取る頃には暴れる事もなくなってるって寸法だ。良く出来てるだろ?」


私は曖昧に笑みを浮かべた。


「それで……僕はこれから毎日女の人と夜を過ごさなければならないんですか?」


ディーンは肩を竦めた。


「さぁな。俺がお前くらいの時は毎日でも足りなかったが………その辺は試してみないと分からない。とりあえず、今月は毎日やっとけ」


金はある、とディーンは、にやっと笑った。

どうやら私がいなかった1週間、彼は泥棒に励んでいたようだった。


娼館ではディーンも私も人気があった。

私達は女性を悦ばせる方法を良く知っていたから。

時には金を払わずとも女を抱く事が出来た。

1年程を経て、私は己の欲望をなくす回数を知った。


そして、その頃。

私はディーンと別れ、一人で旅をするようになった。

一人でも十分稼げるようになった、とディーンが言ったからだ。


「レムス、お前そろそろ独り立ちしろ。このままだとお前の稼ぎを当てにしちまうようになる」


それは己のプライドが許さねぇ、とディーンは言った。

確かに私は裕福な家に招かれて歌う為、ディーンより稼ぎが多かった。

二人の稼ぎを合わせれば十分に暮らしていけるから、ディーンは盗みに入る回数が減っていた。

二人で娼館に行っても、まだおつりがくるくらいに。


「分かりました」


私はディーンに言われるままに別れた。


ありがとう、とか、さようなら、とか。

そういう事は言わなかった。

ただ、頭を下げて、出て行った。


あの時からディーンとは会っていない。

彼は確かに恩人なのだろうが、彼が私の独り立ちを手伝ったのはそれが規律だから。

本来なら彼の弟がやるはずだった事を仕方なしに彼がしただけ。

そうは思っても、別れてしばらくは寂しくて堪らなかった。

それでも私は私の為にリュートをつま弾き、歌い、稼いだ。

食べて飲み、女を買って抱いた。


時々、我から抱いて欲しい、という女が現れるようになった。

私は彼女達から金を貰って、抱いた。

つまりは男娼となったのだ。


彼女達の望むようにする術は身に付いている。

買わずに抱けて、しかも金貨が手に入るのだから、一石二鳥どころか三鳥、四鳥だった。

隠している訳ではなかったが、表だって言う事もしなかった。

それでも私を買うのは暇と金のある上流階級の女。


私の事はこっそりとひっそりと広がった。

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