第19話


私はディーンに様々な事を教わった。


一番役に立ったのは、リュートの弾き方だった。

ディーンは辻立ちの吟遊詩人として旅をしながら、各地で泥棒に入っていた。

道端に立って歌うだけでは、帽子の中に入る小金はたかが知れている。

だから泥棒に入らなければ食べていけなかったのだ。

それでも人は傷つけてない、とディーンは言った。


「家の奴に見付からずに色んな物を頂くのが俺の流儀だ」


ディーンはそう言っていた。

ポケットの金貨をじゃらりと鳴らし行くのは娼館。

ディーンは食べるのと同じくらい、女性が好きだった。

私は泥棒する事は嫌だったので、ディーンがいない間リュートの腕と歌声を磨いた。


おかげで私は辻立ちではなく、各家に招待され、金貨を得られるようになった。

ディーンと旅を続けて2年程経った頃からだった、と記憶している。

そして同じ頃、私はディーンに新しい事を教わった。


それまで私は満月の夜、月の光を浴びないように窓のない場所で縛り付けられて、ディーンに見張られ過ごしていた。

ベッドの脚にロープでぐるぐる巻きにされていないと暴れてしまうから。

だが、私の体が大きくなるにつれて、それでは押さえられないとディーンは考えた。


満月が終わった秋の日の朝。

私はくたくただったが、ディーンに連れられてある所に行った。

こじゃれた家だった。


「よう」


ディーンは玄関の戸をノックもなしに開けると、声をかけた。


「ぁら、こんなに早くから?」


そう言いながら出てきたのは、きれいな若い女の人だった。

金色の髪がふわふわしていて、柔らかそうだ。


「あぁ。前に話してただろ?こいつなんだが」


ディーンは隣に立っていた私の背中を押して、女性の前に出した。


「ふぅぅん………」


女性は私を上から下まで何度も見た。

私はじろじろ見られて、俯いた。

なんだか恥ずかしかった。


「きれいな顔………可愛い子ね。いいわ。気に入った」

「じゃ、よろしく」


ディーンはそう言って革袋を女性に渡した。


「レムス、この人の言う通りにしろ。心配しなくても殺されはしない。1週間後に迎えに来るから、それまで良い子にしてろよ」


そう言ってディーンは出て行った。

私はどうしていいか分からず、その後ろ姿を呆然と見送った。


「へぇ、あなたレムスって言うの?」

「………はい」


私は女性の声に応えて、振り向いた。


“ジョン”の名は捨てた。

“レムス”はディーンが新しく付けてくれた名だ。


女性はにっこり笑っていた。


「レムス、いいこと教えてあげる。私達が天国に近い場所に行けるようになる方法よ」


女性は私の手を取ると家の奥に向かった。

廊下の突き当たりで女性は床を蹴った。


と。


床が下から開いた。

中から明かりのついた蝋燭を持った女の人が顔を出す。

彼女も若く、きれいだった。


「さ、階段を下りて」


私は最初の女性の言葉に促され、足を進めた。

後ろで音もなく床に開いた戸が閉まる。

私は蝋燭を持った女性の後ろについて歩いた。

後ろからは最初に会った女性がついて来る。


廊下にはたくさんの戸があった。

どうやらこの地下は奥に長く続いているらしい。

女性は一番奥の戸の前で止まるとノックもせずにその戸を開けた。

部屋の中に私を促し、ランプに明かりを入れる。

後から入ってきた女性が戸を閉めた。


そして………


私は様々な女性を相手に、女性が悦ぶ様々の手法を仕込まれた。

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