第17話
私はまだ森の中にいた。
手も足も泥だらけで、何が起きたのかイマイチ分かっていなかった。
なんだか悪い夢を見ていたようだ、とその時は思った。
ぃや、森にいるのでまだ夢を見ているのだと思ったのだったか。
とにかく私はミシェルの家に向かって歩いた。
夢でも現実でも、己がいる場所は森ではなくミシェルの傍だったから。
そして森の外れまで来て、己が何をしたのか気付いた。
夢だと思っていた事は全て現実だった。
辺りには焦げ臭い香りが立ち込めていた。
村の人が数人いて、何やら話している。
私はとっさに身を隠した。
そして彼らから見付からないようにそっと森に戻った。
その日から私は森を歩いた。
とても疲れていたし空腹だったけれど、足を止めはしなかった。
歩き続けていれば何かが変わる、とでも思っていたのかもしれない。
死んでしまいたい、と思っていたのかもしれない。
あの時私が何を考えていたのかは、己の事であるのに分からない。
ただ。
死ななかった。
何日かかかって………それも1日か、3日か1週間かさえ分からないのだが………森を出た。
出た所には焼け落ちた家があった。
ミシェルの家だった。
私は森を彷徨った挙句、元の場所に戻っていた。
どうやら火事には誰も気づかなかったようだ。
消火されなかった家は、見事に。
それを見事と言っては不謹慎なのだろうが、でもそう言ってしまう程、きれいに焼けていた。
残っているのは数本の柱と半分の高さになった壁。
それも黒くなっている。
木で出来た家がいかに火に弱いのか、という事を知らしめる良い見本のようだった。
周りには誰もいない。
私はふらふらとそこに近づいた。
炭になった木を跨ぎ、ミシェルの部屋だった所に入った。
焼け落ちた屋根や壁はあらかた片付けられていた。
ミシェルや両親の遺体はなかった。
それでも細かい木切れは散乱している。
私は床に這いつくばり、それらの木切れをどけた。
何をどう考えたのだか分からないが、とにかく私はそうした。
そして見付けたのだ。
紅い石を。
それは私がミシェルにあげたものだった。
元々は私の祖母の物だったように記憶している。
それを私はミシェルにプレゼントした。
己よりも彼女にこそふさわしい、と思ったから。
ミシェルはとても喜んでくれた。
いつも身につけていよう、と言って、首から下げていた守り袋の中にそれを入れた。
時々それを取り出しては太陽にかざし、キラキラと光るそれを二人で見ていた。
私は石を拾うと、ミシェルがしていたように太陽にかざした。
石はキラキラと光った。
『きれいねぇ、ジョン』
私はミシェルの言葉に頷いて隣を見た。
でもそこには誰もいなかった。
当然だ。
私が殺したのだから。
その事に思い当たって、涙が出た。
私は石を握りしめたまま泣いた。
泣き続けた。
どのくらいそうしていたのか?
「お前、今まで何処にいたんだ?探したぞ」
僕は背中から掛けられた声に頭を上げた。
見知らぬ男だった。
「ぃやぁ、初仕事がこれだなんて驚いたね、俺は。こんな事ならもっと早く教えておいた方が良かったな。実は満月の2日前にここに来てたんだが………お前、家から1歩も出なかっただろ?そのうち夜になるし、満月の夜は流石の俺も出歩かない事にしててな。でもこれで一つ勉強したな」
男は私の前にしゃがんだ。
「燃やしちまったら何も盗れない。覚えとけよ」
男はそう言ってニヤッと笑った。
とても嫌な笑い方だった。
私は涙を拭いて男を睨んだ。
「ぉいおい、そう睨むなって。俺はお前を助けに来てやったんだからよ」
「……助けに?」
男は頷くと、右手を出した。
「俺、ディーン」
私はディーンの手を握らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます