第15話


森に入り、一息つく。

切り株に腰を下ろして私は頭を抱えた。


ミシェルの名を口にしていたなんて。

夢だと思っていたのに。


シャロンと間違えたなんて。

似た所なんて何処にもないのに。


私は革袋の中から財布を取り出した。

中には数枚の金貨と銀貨、銅貨に混じって紅い石が入っている。

私はそれを握りしめた。


それは私の一番大事な宝物。


ミシェルの形見だ。


ミシェルは私の隣の家に住む幼なじみ。

2つ年下だった。

両方の親が猟師をしていた所為もあってか、家族ぐるみで仲が良かった。

私達の家は他から少し離れた森の傍にあった。

私がまだ忌まわしい体になっていない頃、私達は森で良く遊んだ。


駆けっこやかくれんぼ。

歌を歌ったり花を摘んだり。


私はミシェルが大好きで。


ミシェルも私を大好きで。


幼かったので肌を合せる事はなかったが、キスをしては大きくなったら結婚しよう、といつも言っていた。


それなのに。


ある夜、私の家に強盗が入った。

目の前で両親が殺された。

強盗は私を見た。


その手にある大きなナイフが蝋燭の灯りを反射した。

私は逃げようと窓辺に走った。

月明かりが部屋の中に差し込んでいる。

その明かりの中に私が飛び込んだ時、足に痛みが走った。


私は月明かりの中に倒れた。


私は狼に足を噛まれていた。


何が何だか分からなかった。


ただ、狼に喰われるのだ、と。


そう思った。


狼は私の足を放した。


馬乗りになられ、いよいよその口が大きく開く、という時、玄関の戸を誰かが叩いた。

何度も何度も。

そのうち体をぶつけるような音もし始めた。


狼は私の上から降りると、窓に向かって体を躍らせた。


玄関の戸が開き、誰かが入ってきた。

大丈夫か?という声が聞こえる。

私はそこで意識を失った。


気付いた時、私はミシェルの家にいた。

私はミシェルの家に引き取られていた。

私の足の怪我は酷くはなかった。


ミシェルは私の看病をしてくれた。

両親を失った私を支えてくれた。

ミシェルの両親もだ。


それなのに………


私は私が襲われてからひと月後、ミシェル達を殺した。

どうしようもない衝動にかられて。


私は呪われていた。

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