第12話


夕食の後、私は暖炉の前にある安楽椅子に座り、シャロンが部屋に戻るのを待った。

私がベッドから起き上がるようになったので、当然のことながらベッドは正当な持ち主が使っている。


「では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


シャロンは食器を拭き終わると、部屋に戻った。

私は蝋燭の灯を吹き消すと椅子の心地よい揺れに体を預け、シャロンが眠るのを待つ。


夜更けて月の灯が窓から差し込むようになると、私は静かに立ちあがった。

耳を澄ませても隣の部屋からは何の音もしない。

私は足音を忍ばせ、玄関の戸に向かった。

音を立てないようにそっと開け、そして閉める。


半分欠けた月の明かりで外は明るい。

私は月明かりを頼りに、川に沿って歩き始めた。

春まっ盛りのこの時期、夜でも寒くはなく、気持ち良かった。


目的の場所までそう時間はかからなかった。

半分とはいえ、月は私に人にはない力を与える。

昼間よりも早い時間で着いたのは、その所為だ。

それが望んでいるものではないとはいえ、こういう時は便利だと言わざるを得ない。


私はその場でくんっと匂いを嗅いだ。


………時間が立ち過ぎたか。


その場に何も残っていない。

私は跪き地に顔を近づけると、また嗅いだ。

何度か嗅いだ後、まっすぐに立つ。


残念だが己の匂い以外残っていない。

私は息を吐き、それから森に入った。

半分だった月が丸くなった時、私は村にいてはいけない。

旅から旅の生活で、それは難しい事ではなかった。

だが、金貨もリュートもない今、この村を離れる事は難しい。


とすると私はその夜、今夜のように家を抜け出し森で一晩を過ごさなければならない。

私は森の中を歩き回った。

そして結論。


この森は小さいので、気を抜くと人の住む町や村に行きあたる。

人の足では抜けるのに2日かかるような森も、力を持つ私なら一晩で3周は走れる広さしかない。

私は息を吐きながら、家に戻った。

今度の満月をやり過ごす上手い方法が何かないかと頭を捻りながら。

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