暮らし
第9話
私はその日からシャロンの家にいる事になった。
その理由は一つ。
新しいリュートを手に入れられるかもしれない、とシャロンが言ったから。
それはシャロンに拾われて2日目の事だった。
私が壊れたリュートを見てはため息を吐いていたのを気の毒に思ったらしい。
「リュートを持っていそうな人に心当たりがあるの。でも、その人、今は村を出ているのよ」
「どちらに?」
その時もまだ、私はベッドの上にいた。
シャロンは必要以上にベッドから出る事を許可してくれなかった。
頭を打ったのだから3日はベッドで過ごせ、という事だった。
私は乾いた己の服を着て、シャロンのベッドを占拠していた。
亡くなった人の服を着るのはどうも気持ちが落ち着かなかったからだ。
因みにシャロンは隣の部屋にある安楽椅子で寝ていた。
女性が椅子で寝ているのに、私がベッドで寝る事は出来ない(しかもそのベッドは彼女の物だ)と言うのを、シャロンは鼻で笑った。
「患者は医者の言う事を聞くものよ。完治してから同じセリフをどうぞ」
と、言われた。
「さぁ。ちょうど仕事の依頼があって出て行ったのよ。仕事が終われば戻って来るわ」
肩を竦めたシャロンを見て、私は顔を顰めた。
「それではいつお戻りに?」
「さぁ、分からないわ」
シャロンはまた肩を竦める。
私は大きく息を吐いた。
「話になりません。私はいつまでもこの村にいるつもりはありません。新しいリュートを手に入れる方法は他にもあります」
あと半月もすれば魔の時だ。
その時、私はここにいたくはない。
「高いんでしょう?」
「えぇ。ですが最初にある程度の金額をまとめて払えば、後は分割する事も出来ます」
そう。
リュートさえ手に入れば、仕事をすれば金貨は手に入る。
今ある金貨を全て持ち込めば、交渉次第で何とかなるだろう。
それに………
「新品でなくてもいいのです。状態が良ければ問題ありません」
中古なら値段は多少落ちる。
それでもまだ一度に支払う事は出来ないだろうが、交渉次第では難しくないかもしれない。
シャロンはふぅん、と言った。
何を言っているんだ?とでも言いたげな表情で。
「じゃぁ、一つ聞くけど。レムス、あなたお金持ってるの?」
「ありますよ。ぃえ、あったでしょう?私を助けた時、懐に革袋が………」
私は首を傾げるシャロンを見て不安になった。
まさか、そんな………
「………なかった……ですか?」
「なかったわよ。あなたの傍にあったのは、着替えや食料が入った革袋とリュートだけ。あぁ、その革袋の中に財布はあったけど、それじゃないんでしょう?」
私は頷いた。
「胸の辺りに入れておいたのです。こう、シャツと上着の間に」
「………服を脱がせた時もそんなものなかったわ」
「ぁ………ぅそだ…」
私は頭を抱えて呻いた。
「どのくらい入っていたの?」
「………金貨…50枚……革袋2つに分けて」
「そんなに?吟遊詩人って、稼ぎ良いのねぇ」
シャロンは感心したように言うが、もちろん、普通はそんなに貰えない。
3日間で10枚もらえれば御の字だろう。
だが。
私の歌は高い事を売りにしている。
だから20枚。
加えてもう一つの仕事の分。
そちらの報酬が30枚。
合せて50枚。
「ぁ、川の中には……」
「落ちてなかったわ。持ち物を落としていないか確認したもの。それに引き上げた時、簡単に体を調べた時にも気付かなかった」
私は上げた頭をまた下げた。
「その金貨が何処に行ったのかは分からないけれど、とにかく、あなたはほとんど文なしなんでしょう?お財布の中にはお世辞にもたくさん入っているようには思えなかったから。だったら待つしかないわね」
私は返事をしなかった。
だがシャロンは気にする事なく話し続ける。
「安心して。食費を取るような事はしないわ。もちろん薬代もね。この家で彼が帰って来るのを待ってれば良いわ」
私は頭を上げた。
「その、彼という一体どんな人なのですか?」
「ん?ん~~一言で言えば、何でも屋、かな。何でも出来て、何でも知ってて、何でも持ってる。そんな人なの」
シャロンはにっこり笑った。
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