第6話


私は薬を飲む為に起き上がろうとして、初めてそこで、私は何も着ていない事に気付いた。

布団を覗き込むと、見慣れたものが目に入る。

下も脱がされている。


「……服は?」


私はシャロンに目をやった。


「あ~~ほら、濡れてたから。そのままだとベッドが濡れちゃうでしょ?だから脱がせたのよ。まだ乾いてないから、これでも着てて」


シャロンはそう言って私にシャツを差し出した。


「父の物なの。古いけれど、ないよりはましでしょう?」


私は頷いて、それを受け取った。


「起き上がれる?手伝った方がいい?」

「ぃや………大丈夫」


私は一人で起き上がると、シャツに袖を通した。

ボタンを留める途中で何気に顔を上げれば、シャロンは顔を背けていた。

そういえば、シャツを差し出した時も………


恥ずかしがっているのか?

私を裸にしたのは彼女だろうに。

ヘンな人だ。

私はボタンを留め終わると、シャロンに声をかけた。


「シャロン、薬はどうしても飲まないといけないのですか?」

「ぁ、えぇ、そうよ」


シャロンはゴブレットを差し出した。

私はそれを受け取って、何の気なしに中を見た。

どろりとした薬液はトルコ石の青緑色をして、どうにも不味そうだ。

これを口にするのは間違っている、そう思わせるに十分な色。


「どうしたの?」

「これが薬なのですか?今までこんな色の薬を見た事はありませんが」


私はシャロンにゴブレットを返そうと差し出した。

だがシャロンは頭を振る。


「レムス、それはれっきとした薬よ。私が煎じた薬。今まで見た事がなかったのは当然の事で、つまり、私がその薬の開発者なの」

「………あなたは何者ですか?医者が薬を開発するなんて、初めて聞きました。というか、そもそも医者が村にいるなんて聞いた事がない。医者は城の中にいるものでしょう?」


そして薬は薬師が作るものだ。

シャロンは私の言葉を聞いて、くすくす笑った。


「あぁ、そういう反応、久しぶりだわ」

「何がおかしいのですか?」


シャロンは頭を振って、笑いを治めた。


「レムス、私はまだあなたにここが何処か教えていなかったわね」

「………特別な所なのですか?」


私は部屋の中を見回してから尋ねた。

少なくともこの部屋に変わった所はない。


狭い部屋にベッドとサイドテーブル。

壁際には書き物机と椅子。

本棚には多くの本。


そう。


この本が異彩を放っている位だ。

腰高窓から見える外には私の着ていた服や着替えが干してあるが、その光景も特別な物だとは思えない。

なのにシャロンは頷いた。


「ここは私の家。私は魔法使いよ」

「はぁ?何を言っているんですか?魔法使いって………」


私の戸惑いに応えるかのように、シャロンは髪に挿していた棒をすぅっと抜いた。

髪がするりと落ちる。

私は言葉をなくして、シャロンの姿に見惚れた。


美しかった。


この世のものではないと思う程に。


「レムス、これが杖よ。魔法使いの杖。私は魔法使いなの」


シャロンは私の目の前に杖を差し出した。

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