第2話


二日後。


私は金貨で懐を温めながら旅路にいた。

途中見付けた泉で休憩し、大きな木の傍で野宿した。

かなりのんびりと歩いたのだが、町を出てすぐに入った森ももうすぐ抜ける。


背中には仕事道具のリュート。

肩から掛けている小さな革袋には着替えと食料。


次の町に行かねばならない、と言ったものの、その期日は誰に決められたものではない。

己の気の向くままに、行きたい時に行くだけ。

先日あの町を離れたのは、単に仕事をしたくなくなったから。


にしても………


私は別れ際、エスターがこっそりと金貨と共に渡した物を懐から出した。


「イニシャル入りのハンカチ、か………私がこれをどうするのか、それが分からない程あの娘が初心だったとは思えないが………」


己の香を移したハンカチを男に贈るのは、己の気がある、と男に伝える手段。


「くだらない」


私は森を抜けた所を流れていた川にそのハンカチを捨てた。

ここまで持っていたのは、この時の為だ。

巡り巡ってエスターの元に戻るのを防がなければならない。

万が一、彼女の耳に入りでもしたら今後の仕事に差し支えかねない。

私は顧客を大切にする事をモットーにしているのだから。


何となくハンカチの行方を見る。


川岸は結構な崖になっていて、5、6メートル足元を水が流れている。

水量はそれほどでもなく浅そうだが、流れは速い。

ハンカチは何度か風に煽られながらも川に落ち、そのまま流れて行った。

そのまま川沿いに下流に向かって歩こうとしたその時。

突然、足元の土が崩れた。


「ぅわっ!」


私は手足を動かし空中で体を泳がせた。


だが。


そんな抵抗も空しく、私はハンカチのように川に落ちた。

背中のリュートが壊れたら仕事が出来ないな、と、そんな事を思ったのも束の間、体中に激痛が走り、私は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る