見えない敵と結末

シオンがヴァイス侯爵の街を出発した頃───


ヴァイス侯爵は苛立っていた。

ここ数日前から、寄り子である派閥の貴族達から、次々に派閥脱退の書状が届けられていたからだ。


中には絶縁状も送ってくる貴族もいた。


「ふざけるなっ!我が娘が王妃なる目前なんだぞ!?」


すでに、約3千人もの武器や兵站といったものを北から輸入して倉庫に隠してある状態である。本来であれば、周りの貴族を買収して、王妃の投票を買う為の資金を、武器や物資を買う為に使ってしまっているのだ。

メイゲン伯爵にも仲介料として、少なくない資金を渡してある。派閥の貴族から集めた資金はほとんど手元にないのだ。今後、傭兵を雇う分の金が献金されれば準備は整う。

実際は、本当に叛乱するつもりはなく、こちらの戦力をみせつけて、他の王妃候補を諦めさせるのが目的だった。


今日はダメ押しに、ゼファー子爵自身が訪ねてきた。シオンと鉢合わせしないよう、1日遅れて出発していたのだ。


「貴様!正気かっ!?」

「ええ、私は至って正気ですよ。先代の時の恩義を返す為に、今まで我慢してきましたが、貴方はやり過ぎた。貴方の親類であるワルヨノー伯爵家は取り潰される事になりましたよ?」


!?


「なんだと!どういう事だ!?」


その情報は知らなかったようで、声を荒げた。

ワルヨノー伯爵家にヴァイス侯爵の妹が嫁いでいたのだ。ただし、妹はすでに病死している。父親は妻の分まで、甘やかして育てため、バカ息子になったと言う訳だ。


「理由は自分で調べて下さい。ワルヨノー伯爵家が取り潰された為に、必然的に娘との婚約も白紙となります。すでにお渡しした支度金は、全て返して頂く!」


ゼファー子爵は強気に言った。


「待て、まだ状況が掴めぬ。今すぐには無理だ!」


ヴァイス侯爵には今、手持ちの金がないのだ。


「わかりました。少しは待ちましょう。ただし、期日内には必ず返して頂きます。娘と無理矢理婚約を結ばせた時の条件に、書いてありますよね?先方が、犯罪行為を起こした場合は、支度金の全額返金及び、違約金を支払うと。これは伯爵家が返さない場合はヴァイス侯爵が代わりに連帯保証人として、支払うと記載してあります。すでに帝都にある貴族院にも提出してある書類です。逃げられませんよ」



元々、性格に難のある人物だと広く周知されていた。いくら圧力を掛けて婚約を結ばせても、いくつかの条件は飲まされたのだ。


ゼファー子爵は帰り際にダメ押しした。


「ああ、早々、貴方子飼いのダイカーン男爵も捕まりましたよ。何でも違法に女性を奴隷にして売り捌いていたとか。皇帝陛下がカンカンにお怒りで、すでに王宮騎士団も派遣されています。ヴァイス侯爵も精々お気をつけて」


!?


ゼファー子爵は振り返らずに屋敷を後にしたのだった。


慌てたヴァイス侯爵はすぐに部下を各領地へ飛ばして情報収集をしたが、全ては遅かった。

シオン令嬢と言う人物が関与している事はわかったが、すでに皇帝陛下の名の下での断罪だったと調べがついたが、それどころではなかった。


ゼファー子爵の話は全て本当の事であり、日に日に、派閥脱退の書状が多く届いたのだ。

圧力を掛けようにも、東部全域に王宮騎士団が派遣されており、自身の不正を隠すのがやっとであった。


ヴァイス侯爵は派閥の維持の為に、献金は『一時的』に凍結すると、声明文を発表し各領主の貴族に送ったが、そんな馬鹿にしている書状を、全ての領主は無視したか握り潰した。


そして、ゼファー子爵が新しく発足する派閥へ加入すると、逆に突っ返される事になった。


宰相は三分の一ぐらいしか残らないと思っていたが、それよりも多くの貴族が脱退し、ヴァイス侯爵の派閥は血縁者しか残らなかった。


そして強気で商売していた事が仇となり、急に領地で生産された物が売れなくなり、他領の商品を高く購入しなければならなくなった。


あっという間に資金繰りが悪化して、どうにも出来ない状態となった。


献金で集めた資金があれば、対策もあっただろうが、すでに物資をかき集めるのに、手持ちがなく、メイゲン伯爵に手付金を返すよう求めたが、メイゲン伯爵は突っぱねた。


どこにそんな証拠はあるのかと。


秘密裏に武器や物資の輸入などのしていた為に、売買書など、メイゲン伯爵は証拠を一切破棄しており、長年の付き合いのあるヴァイス侯爵も、危ない橋を渡っていたので、証文は破棄していた。


いくら口で言おうとも、証拠がなければ、ただの難癖になるだけだった。


メイゲン伯爵は事前に不穏な動きがあると感じ、自身も情報収集をしていた為に、ヴァイス侯爵を切ったのだった。


こうして不渡りを出したヴァイス侯爵は、どうする事もできずに、貴族籍を返却して平民と成らなければならなくなった。


実際は事件から数ヶ月経った後の話だが、ヴァイス侯爵に余裕はなく、4月時点で帝都に行くことも叶わず、4月の【妃選定の儀】が始まる前にメロン・ヴァイス侯爵令嬢は脱落したのだった。


その後、平民に落ちたヴァイス元侯爵に義理立てする者がいなくなり、今まで隠していた犯罪行為が露見し、最終的には帝都で一族揃って逮捕されたのだった。




次回から【新章】王宮編が始まります。

数日後から毎日更新していきます。

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