本人のいない所で

カノンことゼノン皇帝は新たな決意を胸に王宮へ戻った。


「お帰りなさいませ。どうでしたか?」


執務室で宰相が出迎えた。


「ああ、正直かなりの大事件に発展してしまった。それで宰相にも聞きたい事ができた」


「こちらも陛下が留守の時に緊急案件が持ち込まれました。是非とも対応を検討したいと相談があります」


「何だと?わかった。だが、オレから先に報告させてもらうぞ」


宰相も気を引き締めて報告を聞いた。


「な、なんですと!?ま、まさかあの組織が生きていたとは………」


やはり宰相は知っていた。


「なぜオレに教えていない!」

「………それは、もう5~6年も前に壊滅して無くなったと聞いていたからです」


「それにしても、帝王学を学ぶ時に、そういう組織があったと、教えるべきだろう!オレだけ知らずに蚊帳の外だったんだぞっ!」


ギリッと歯を噛み締めて悔しさを滲ませた。


「それについては申し訳ございません」

「まぁいい。それであの組織について調べて欲しい」


「しかし、かなり危険を伴いますぞ?逆恨みから皇帝陛下の命も狙われる可能性がありますが?」


「それは覚悟の上だ。シオン令嬢は地の底に落ちていた、皇帝の名の名誉を回復させてくれた恩人だ。オレにできることで恩を返したい」


宰相はゼノンの覚悟の目をみて頷いた。


「かしこまりました。王家の影を使い探ってみましょう」

「感謝する。ただかなりの手練れ揃いだ。細心の注意を払い、気をつけるよう徹底してくれ」


「御意に」


次にゼノンは宰相の報告を聞いた。


「それで緊急の案件とは何があった?」


宰相は報告書を取り出してゼノンに渡した。


「覚えておられますか?元、元帥だったルドルフ大将軍から極秘に届けられたものです」


ゼノンは報告書に目を通すと眼つきが鋭くなった。


「叛乱か………」

「はい。すでに3千人規模の武器が北の国から輸入されているそうです」


ヴァイス侯爵の意図を考えてみる。


「しかし、たかだか3千人ほどの準備で叛乱が成功すると思っているのか?」


不可解な点が多い。

この程度では制圧されて終わりだからだ。


「考えられる事としましては、イレギュラーが起こったからだと思います」


「イレギュラー?」

「はい。シオン令嬢です」


!?


そこで、どうしてシオン令嬢がでてくる?


「私も首を傾げました。成功するはずのない戦力で叛乱するとはと………しかし、数日考えてようやく気付いたのです。本来なら、東部の戦力で考えるなら、ヴァイス侯爵が常時している騎士団約300人。そこに有事の際に、平民から徴収兵を集めると、【東部全体】で【1万5千】は集まるでしょう。そして、北の貿易を担っているメイゲン伯爵も、協力すれば、プラスで1万の軍勢で合計【2万5千】にもなります。そこに、良質の武器を持った傭兵団が加われば戦力が拮抗し、完全な内乱となるはずでした」


そこまで言われてゼノンもようやく理解した。


「あ~~そういう事か。外からの援軍が3千という意味だったか。だが………」


「はい。しかし、ヴァイス侯爵の派閥はこの一ヶ月もしない間にするシオン令嬢のお陰で半減しております。血縁関係以外の領主は離脱すると思われますので三分の一ぐらいになると予想しております」


「クククッ、1万5千の兵力が約5千まで減るのか。そこに3千の傭兵を足しても8千。1万にも満たないな」


「ええ、ヴァイス侯爵の権力が下がったと知れば、あの蝙蝠の性格であるメイゲン伯爵は協力しないでしょう。確かに侮れない数ではありますが、そのほとんどが、徴兵された民兵であれば、士気も低いでしょうから、油断しなければ負ける事はないでしょうな」



メイゲン伯爵は強いヤツに味方する蝙蝠の性格をしているからな。ヴァイス侯爵もメイゲン伯爵に感化されて、金の亡者になったとも言えるが。


「さて、ここままダイカーン男爵領へ向かわせた騎士団を、そのままヴァイス侯爵を反逆罪で捕縛する為に向かわせるか?」


「いえ、まだ東部全体で情報共有が出来ていません。ヴァイス侯爵の派閥を脱退する領主が全て終わってからがよろしいでしょう」


「どれくらい時間が掛かる?」

「約1ヶ月といった所でしょうか。ゼファー子爵の新しい派閥結成もありますので」


「ゼファー子爵には、東部の新しい盟主になって貰いたいからな。伯爵家に陞爵させるのは確定だな。数年後にはヴァイス侯爵の領地も与えて侯爵だ」


「はぁ~周りの貴族のやっかみが多くでますなぁ~」


その対処に頭が痛いと宰相は首を振った。

そこまで話して、ゼノンはフッと思い出した。


「うん?ちょっと待て!確かシオン令嬢はヴァイス侯爵の領地に向かうと言っていたぞ!?」


「えっ!?それはマズイです!あの令嬢なら絶対にトラブルを起こしますよ!?」


ゼノンは早馬を飛ばして、情報を伝えるように伝令を送った。

しかし、ヴァイス侯爵の街で、シオン達がルドルフ大将軍に会って、その情報をすでに知っている事を知らなかった。


そして、反逆罪で軍を派遣しなくても、想像以上に早く経済崩壊を起こして、破滅することになる事にを、今はまだ知らなかったのである。






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