果報は寝て待て
店を出る前に最後に聞きたかった事を尋ねた。
「ルドルフさんは、この街に住んでいるんですか?」
「いいや、ワシがこの街に来たのは約1ヶ月ほど前じゃ。各地に飛ばしておった『草』から、ヴァイス侯爵領に大量の武器が輸入されていると報告があってのぅ。すでにワシは隠退し、家督も息子から孫に移っているくらいじゃ。自由に動けるうちに調べに来たという訳じゃよ」
「なるほど。それでこの街に………」
多くの貴族が腐っている中で、国を憂いるまっとうな方もいるのね。この国も、まだまだ捨てたもんじゃないかもしれないわ。
「しかし、シオン令嬢のお陰で、ワシもお役御免じゃ。近々に、この街を去るとしよう」
えっ?どういうこと?
この街も私に救えってことなの!?
「それはどういう事でしょうか?」
『これはまた、お嬢に討ち入りしろと言っているのでは!?』
護衛の騎士達は、ハラハラと涙を流しながら、やっぱりこうなるのかと、諦めに似た心境だった。
「なんじゃ、気付いておらぬのか?すでに東部の南側の半分はヴァイス侯爵の派閥を離脱した。さらに、ゼファー子爵家が新たな派閥を作るじゃろう。そこに、ヴァイス侯爵の専横に嫌気の差していた他の貴族も、ヴァイス侯爵の派閥を抜けて、ゼファー子爵の派閥に加入するじゃろう。するとどうなるか───」
シオンもそこまで言われて気付いた。
「この街の経済が崩壊するわ!」
今まで圧力を掛けて普通の商品を高値で買わされていた。ヴァイス侯爵が怖くなくなれば、買わなくなる。さらに、不当に安く買い叩けれていた商品も、無理に売らなくても良くなる!
ヴァイス侯爵領地で生産される商品が、売れなくなる。
他領から日常生活の商品を安く売らなくてもいいので、逆に売らなくなる。もしくは、高値で売りつけることができるようになる。
自分の領地の物が売れなくなり、輸出できず外貨が稼げない、他領の輸入品が高くなる。
あっという間に、経済崩壊まっしぐらだ。
もし、信用と信頼で貿易をしていれば助ける領地もあっただろうが、これまでの経緯からどこも助けないだろう。
そうなると、叛乱どころではなくなると言うことか。
「その通りじゃな」
「でも、すでに大量の武器は輸入済みなのよね?最後に一か八かの賭けにでるのが怖いわね」
「いや、大量のと言っても約3千人分の武器類と確認が取れておる。それくらいの戦力など対した事はないじゃろう。最初に言ったが、それを使う兵士がいないのじゃ。流石に大量の傭兵が北から流れて来たら必ずわかる。心配はないじゃろう。無論、この事は皇帝陛下にもお伝えするしのぅ」
なるほど。
それならしばらくは静観するのが良いわね。
「わかりました。貴重な情報をありがとうございました」
「うむ、長々とスマンかった。またいつか会おうぞぃ!」
二人は硬い握手をして、店を出るのだった。
そしてシオンは一泊するとすぐにヴァイス侯爵領を後にした。
「あ、例のアレ、確認出来なかったなぁ~」
シオンは呟くが、周りの仲間の様子が可怪しかった。
「初めてだよぉ~」
「何も無かった………」
「夢なら覚めないで欲しい」
「平和って素晴らしい!」
なんだかな~~~
初めてトラブルの無かった事で感動していた。
しかし、事態はシオンのいない所で動き出していた。そう、トラブルはシオンのいない所で発生していたのだ。
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