顔見せのお茶会

オリオン辺境伯とシオンの母親は泣きつつも娘の出発を見送った。


「ハル、アキ、娘をよろしく頼むぞ!」


「「はい!お任せ下さい!」」


ハルとアキは双子の姉妹で、シオン付きのメイドである。無論、シオンの護衛も兼ねているスーパーメイドである。


「シオン、本当に王家の者が不甲斐ないせいでごめんなさい」


母は泣きながらシオンに謝った。

腐った王家の中でも【まだ】マシだったマリアは、辺境伯が裏切らないために送った政略結婚だった。


嫁いだ当初は尊大な態度で周囲を困らせたが、砦の城壁の上から戦争の悲惨さを目の辺りにした事で、目が覚めたかの様に献身的な態度に変わった。


自ら傷ついた兵士を治療する事もあり、辺境の地では聖母と呼ばれるほどに、今は慕われている。


今は2月の中旬頃で、場所によって雪が積もっている。こんな時期に嫁ぐのも嫌がらせの1つだった。


「お母様、私は大丈夫です。心配しないで下さい」


こうしてシオンは旅立っていった。




一方、エスタナ帝国では───


すでに国内から有力貴族の娘達が6名がすでに王宮に集まっていた。


ザワザワ

ザワザワ


「ねぇ、聞きました?あの人質姫の話」

「クスクスッ、ええ聞きましたとも。お可哀そうに」

「敵国の姫が嫁いでも寵愛など受けられませんのにねぇ?」


ほとんどの女性陣は馬鹿にした様に話している。

しかし、1人だけ沈黙している女性がいた。


「あら?エリス様、どうなされたんですの?」


暫定順位第1位、【日曜】の席座っているエリス・ブルーネット公爵令嬢だった。


「オリオン辺境伯の令嬢と聞いています」

「そうなのですよ!先の大敗で、人質として送られてくる姫様ですわ。お可哀そうに」


得意気に話すのは【水曜】の席に座る令嬢、バーネット・メイゲンは北の貿易を取り仕切る裕福な伯爵家の令嬢だ。


チョンチョンッ


うん?横から突かれて顔を向けると、【木曜】の席に座るセラ・ラビット侯爵令嬢だった。内務大臣を父を持ち、皇帝の政務を手伝う家系だ。


「なんですの?」

コソッ

「知らないのですか?エリス様のお兄様がオリオン辺境伯に殺されたのを……」


!?


しまった!

暫定でも順位の上の令嬢を不快にさせたのはマズイと思い、顔を青くして謝った。


「あ、申し訳ありません。わ、私知らなくて……」

「構いません。こちらこそ気を使わせてしまいごめなさいね」


取り敢えず謝ったが、エリスは無表情のままであった。そこに皇帝陛下がやってきた。


先代皇帝が崩御して、一年前に新たに皇帝の座に着いたゼノン・エスタナ皇帝である。歳は20歳。


ゼノンが皇帝になる時に色々と血なまぐさい事があり、冷酷無比という言葉を取って【冷酷皇帝】とも言われている。


そう呼ばれる由来はもう一つあり、薄い青色の髪で氷の魔法を得意としている事で、冷たい印象と冷たい魔法使いと言う事を、揶揄って冷酷皇帝と呼ばれることもある。


「集まっているようだな」


着座するとすぐにそう言った。


「発言を失礼します。1人まだ来ていない者がおりますわ」


席の空いている場所は、1番下の【土曜】の席だった。この場にいないのだ。1番下のランクになるのは当然だった。


「ふむ、まぁ妃選定のスタートは4月から開始だ。今回は顔見せの集まりなので問題なかろう」


そう、7人の妃がより王妃に相応しい優越の順位を競い合い、1位を決めるのは4月から1年間掛けて競い合うのだ。


ならばどうして1ヶ月以上も前から集まるのか?

それまでに、住む場所の環境を整えるからである。


環境というのは、その場所の執事、メイド達を買収………失礼、執事、メイド達の心を掴み、他の妃の勢力を防ぎつつ、自分の勢力を拡大していく。


そうして生活基盤と政治的基盤ができる頃から勝負が始まるのだ。




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