唯我独尊

皇帝と【妃達】の顔見せと言うお茶会が始まった。

顔見せと言ってもすでに帝国国内のパーティーなどで何度も会っているのだが。

出されたお茶を一口飲んでから皇帝ゼノンは重要な事を口にした。


「さて、ここに集まった【妃候補】達に重要な話がある」


令嬢達は首を傾げた。

序列はあるが、ここにいる令嬢達は全員が【妃】のはずだからだ。


「俺はこの七人の妃を全員娶るつもりはない。この中で1番になった日曜(にちよう)の者だけ正室として娶るつもりだ」


!?


皇帝の言葉に震えながらある令嬢が尋ねた。


「で、では残りの者達はどうするおつもりですか?」


「選ばれなかった残りの者はそのまま家に返す」


【帰す】ではなく【返す】

その意味に気付いた令嬢は──


ヒュッ─


そんな声にもならない声を上げた。

正直、序列が低くとも妃を輩出した家門は権力を握れるからだ。それを【返品】されたとなれば家の恥となり、今後その他の良縁は不可能だろう。

最悪、修道院行きになる。いや、高い確率でそうなるだろう。故に、絶対に日曜(にちよう)の妃にならなくてはいけなくなったのだ。


「皇帝陛下!今までの伝統を覆すおつもりですか!他の貴族達も黙っていませんわ!」

「そうですわ!それは余りにも横暴ではありませんか!」


多くの令嬢が反論した。


「この制度は昔の愚王のせいで定められたものだ。俺には関係ない」


唯我独尊

絶対の王者がそこにいた。


「ああ、俺も鬼ではない。各家の事情も承知している。君達の貴重な1年間を無駄にするのも忍びない。だから今回は辞退しても構わない。辞退しても何もペナルティなど課さないと約束しよう」


!?


通常ではありえない言葉だった。

皇帝の妃に選ばれた者が辞退などできるはずがないのに。


「そ、それは………」


1人の令嬢が言い掛けて止めた。

いくら皇帝が宣言したとしても、辞退などした場合、社交界では笑いものにされるだけだ。


「今すぐ決める必要はない。先も言ったが各家の事情もあるだろう。だから正式に【妃選定の儀】が始まる前に実家に戻り、この話を伝えるがいい。4月が始まる時に、この場にいた者だけ試験を受ける意思があると認める」


多くの妃候補達はこれからの事を考えて黙った。

デメリットの方が多すぎる。

とはいえ、黙って辞退しても、すでに実家の方では妃に選ばれたことで、強気に商売の契約や交渉をしている所もある。

今更、辞退したいなど軽く言える訳がない。


「ゼノン皇帝陛下、質問をよろしいでしょうか?」


現在1番上の序列のエリスが尋ねた。


「なんだエリス、言ってみるといい」


この二人は幼馴染でもある。王族の血を引く公爵家の令嬢でもあり、従兄妹(いとこ)でもある間柄でもある。


「もし、妃を1人だけ娶ったとして、子供が出来なかった場合はどうされるおつもりですか?」


「それは通例に従い、三年以内に子供ができない場合は愛妾を入れる」


令嬢達の目が開いた。


「愛妾ですか………?側室ではなく?」

「ああ、あくまでも王妃は1人にする。愛妾には多少の贅沢はさせるが、権力は渡さん。同じ理由で側室もいらん!」


エリス以外の令嬢は喜びから一気に落胆した。

もし子供ができない場合はワンチャンあるかもと思ったからだ。


「もし辞退する者がいる場合は、次の良縁を斡旋してやる。国内で難しいなら北の国の王族とかな?」


ゼノンは不敵にニヤリッと笑って言った。

令嬢達はさらに考えを張り巡らせる事になった。


「今回の件は俺のワガママだ。辞退した者には良縁の手配と、実家の方の政治的優遇を約束する。ただし、4月の妃選定の儀に参加して、敗れた者には何の温情もないと知れ」


「ど、どうしてですか!?なぜ参加した者には優遇がないのですか!」


1人の令嬢が叫ぶ様に言った。


「本気で王妃を目指し、敗れた者を優遇してどうする?将来の王妃の政敵になる者を優遇するメリットはない」


令嬢達はウグッと言葉を詰まらせた。


逆に早々に辞退して王妃を譲った形を取れば、ライバルが王妃になっても恩を売れるし、心内ではどう思っても、表面的には友好的に接する事ができる。


もし本気で王妃の座を競い合った場合、もし負ければ中央政権から実家は外されるだろう。負けた令嬢は修道院行きにもなる。将来は真っ暗だ。


さて、ここにいる令嬢達はどちらを取るのか?

必死で考えている令嬢達をゼノン皇帝は冷静に観察するのだった。



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