仕返しコールさん

 カルメたちも相変わらずだが、サニーたちの方もなかなかだ。

 特にここ最近、忙しくしていてコールとの時間をとりきれていなかったサニーは休みを取るなり彼の自室に入り込んで、好き放題に彼に甘えていた。

 すっかり自分の前ではローブを脱ぎ切ってくれるようになったコールの部屋着姿に感動して、明確に友人以上、恋人未満の関係になれたことを理由に彼の衣服から抜け出した柔肌をつつく。

 袖口からチラリと見える手首をたくし上げると、友達の挨拶と称して軽く肌にキスをし、カプリと噛んだ。

 大きな襟口から覗く長く美しい鎖骨を褒め、首筋に振りかけられた香水を口実にコールの首元に顔を近づける。

 鼻先で喉仏を重ねたら、ギリギリ分からない程度に唇を一瞬、肌にくっつけた。

 ニンマリと笑んだ口元から丸っこい八重歯を覗かせ、猛禽類に似たオレンジの瞳をヂカヂカと輝かせながら逃げぎみなコールの腰にスルリと腕を回す。

 そうやって、そっとコールを近くに留めながら、ゆっくり彼を襲い続けた。

『コールさん、大好き……!!』

 酷く赤面して全身に細かな汗をかき、茹だりながらモジモジと困るコールが毎度のことながら、かわいくて、かわいくて仕方がない。

 サニーは段々に自分に追い詰められて部屋の端の方へ寄っていき、とうとうベッドの上にまでよじ登ったコールを追いかけて、彼の隣に座り込む。

「ねえ、サニー、近いよ」

 体育座りをして膝の中に顔面を隠しこんだコールが、恥ずかしそうにモソモソと言葉を出す。

 銀髪からフワフワと湯気を出すコールが愛らしくて、サニーがニマニマと口角を上げる。

「そんなこと無いわよ。だって、私たちはただのお友達じゃないもの。そうしたら、このくらいの距離間でもいいでしょう? いっそ、もう少し近くてもいいくらいだわ」

 ね、と笑ってコールの手を取る。

 そうして彼の太く長い指に自分の真っ白な指を絡めると、サニーは、

「コールさんの大きな手、温かくて好きよ」

 と笑った。

「サニー、僕、その、汗かいてるから」

 サニーの指がシュルリと絡みついて密着する自分の手のひらの汗が気になる。

 絡みあう指を解くため、手から力を抜いてグイッとサニーの腕を引くと、悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女がポテンと自分の上に倒れ込んできて、コールは肩を跳ね上げた。

「サ、ササ、サニー!」

 手を繋いだままのコールが酷く慌てた様子で壁にへばりついてサニーから逃げ出す。

 蛇に捕食される寸前の野ネズミのようになったコールをサニーがクスクスと笑った。

「そんなに驚かないの、コールさん。コールさんに引っ張られてコールさんの上に倒れ込むなんて、よくある事じゃない。それなのに毎回ビックリして、かわいいわね」

 ちょんと鼻先を指でつつくとコールが真っ赤になって顔をプイッと背けた。

「だって、だって今日は場所が場所だし、サニー、あのさ、そこ、退けてよ」

 アワアワと後退る時に大きく開かせてしまった両足の間に入り込んで、そこから自分の方へ体を持たれさせるサニーをコールはチラチラと見たり見なかったりしながら言葉を出し、体を熱くした。

「場所? 場所って? ここはコールさんのお部屋で、触れ合うには格好の場所だと思ったんだけれど」

 惚けたサニーが嬉しそうに首を傾げる。

 すると、さらに困ったコールが言葉を失って口をパクパクと開閉させた。

 若干のパニックになっているコールはサニーが自分を揶揄っていることにすら気がつけなくなっており、必死に、どう表現すれば状況が伝わるのか考え込んでいた。

「コールさんのスケベさん」

 普段は自分がかけられている言葉を、隙あらばコールにも投げかける。

 揃えた指先を口元に当て、ニヤーッと笑むと、ようやく揶揄われていることに気がついたコールが口をムゥッととがらせて、そっぽを向く。

「スケベなのはサニーでしょ。いいから退けてよ。恥ずかしいよ」

「いいじゃない。私はコールさんにくっつけて嬉しいもの。それに、コールさんが私の腕を引いたから、こうなったんでしょう」

「だって、サニーのことだから、どうせ自分で転がったんでしょ。僕、知らないもん」

 照れて拗ねてしまったコールがサニーに頬をつつかれる度に、プイッ、プイッと顔を背けていく。

 サニーはコールが不意に出した「もん」に興奮した。

『かわいい、かわいいコールさん。『もん』なんて可愛い子ぶっちゃって、本当に堪らないわ。かわいい事ばかりの口は、あれかしら』

 コールのホクホクと濡れた唇を見つめるサニーの目つきが怪しい。

 自然と鼻息が荒くなって、早まる鼓動を抑えられなくなった。

「ねえ、コールさん、キスがしたいからこっちを向いてくれない?」

「嫌」

「嫌って、どうして? コールさんもキスは嫌いじゃないでしょ?」

「嫌いじゃないけど、このままの体勢でするのが嫌。サニーは女の子だから分からないかもしれないけど、僕はそこにいられると落ち着かなくなるの。それに、大変なことになるかもしれないし……」

 そう言って少しだけ俯いたコールはモゾモゾと壁際に自身の体をぶつけて、できるだけサニーと距離をとるよう努めた。

 モゾモゾ、モジモジと動く彼は既に落ち着きがない様子だ。

 サニーはそんなコールを目で愛でて、それから物憂げに溜息を吐いた。

「落ち着かないコールさん、大好きなんだけれど。大変なことになったコールさんも見てみたいし」

 チラリと股間付近に視線を送るという、とんでもない行動に出るサニーにコールがギョッとしてブンブンと首を横に振る。

 それから、適当に隣からかき集めた毛布を自身の下半身にかけると、

「駄目なものは駄目! どうしてもキスしたいなら、してもいいけど、退けるのが条件だからね!」

 と、大威張りで両腕を組んだ。

 フン! と、顔を背けるコールは怒った風だが、実際にはサニーからの構われ待ちで、仲直りのキスをワクワクと待っている。

 そうしていると、やがて観念したらしいサニーがしおらしく、

「分かったわ、コールさん。コールさんの言う通り、体勢を変える。でもね、私、キスもしたいけれど少しだけ抱き着いてもいたいの。だから、こっち側に来てくれる?」

 と、問いかけて自分の隣をポムポムと叩いた。

「いいよ。でも、僕に抱き着きたいなんてサニーは甘えん坊だね」

 サニーが自分の足の間から抜け出したのを合図にホクホクと頷くコールが移動を開始する。

 そうして、サニーの指定した場所までコールがやってきて座ると、彼女は一瞬のすきを狙って彼を押し倒し、大きな体の上に馬乗りになった。

「わぁ! サ、サニー! 何!?」

 ベッドの上で押し倒されるという、なかなかアレな状態になったコールが仮面の裏で目をまん丸く見開き、酷く赤面をして慌てた声を出す。

 しかし、サニーは「しーっ」と自分の口元にピンと立てた指先を当てると、コールに静かにするよう促した。

「大きな声を出さないの、コールさん」

「だ、だって、サニー、この格好!」

「なぁに? ちゃんと体勢を変えたもの、いいでしょう?」

「か、変わってるけど、余計ダメになったというか」

「でも、前にもこの体勢になったことあるじゃない。ふふ、初心でいっぱいドキドキしてくれるコールさんが大好きだけれど、流石にもう、慣れちゃったかしら。慣れちゃったなら、前よりも少しだけ過激なことを……」

 サニーはいつだってコールを貪りたくて仕方がない。

 キスもスキンシップも何もかも、何度してもしたりないし、コールの驚き顔や怯え顔などは大好物だから、定期的に新しい刺激を与えて彼が甘く震え続けてくれるように日々、一生懸命に考えている。

 だからこそ、何気にムッツリスケベでキスをされることに慣れ始めて、かつ、それを日常的に心待ちにするようになってしまった、かわいいコールを甘く脅かすべく、サニーは彼のスベスベの腹に手のひらを滑り込ませた。

「絹みたいな手触りね。大好きよ、コールさん」

 コールの筋肉でボコっとでっぱった下腹部を丸く撫で、手のひら全体で柔らかく揉み込む。

「くすぐったいよ、サニー。あんまり変な事しないで……コラ! サニー!!」

 歪む唇に手の甲を当て、クツクツと体を揺らして小刻みに笑いながら照れ怒りしていたコールが、下腹部にキスをし始めるサニーを見て、大慌てで彼女の頭を掴み、遠ざけようとした。

 しかし、すっかりコールの吸い付くお肌に夢中になっているサニーは彼の制止を無視して、ちゅっ、ちゅっと何度も彼の腹にキスを続けている。

 しかも、真っ赤に茹だった顔で我武者羅にコールを貪るべくキスを続けているサニーは目測を誤りまくって、かなり際どい所にまで唇を押し当てていた。

 だいぶアレなところにサニーの歯が押し当てられ、コールの体がビクッと跳ね上がる。

「ひゃっ! サ、サニー! ダメだってば! あんまりにもエッチなことはしないって、前に約束したでしょ! 忘れたの!?」

「キスはエッチじゃない。エッチじゃないから、もう少しだけ許してコールさん!」

「十分エッチだよ! コラ! サニー! ダメ! ダメだったら!!」

 すっかり欲に支配された獣に生半可な制止は効かないようで、コールが、めっ! と叱ってやっても彼女は構わずにキスを続け、上の方へせり上がってくる。

「ねえ、ダメだって言ってるでしょ! サニー!」

「大人しくできたら僕からキスしてあげるから! ねえ、サニー!」

「そこは駄目だってば! そこは予約するだけにして、悪戯するのは恋人になってからって言ってたでしょ! 自分でした約束くらい、守りなよ、サニー!」

 最近のサニーは以前に比べるとけっこう強引で、コールの悲鳴くらいでは止まらない。

 それこそ「嫌い」とか「最低」とか、強い言葉を使われなければわりと好き勝手にコールを貪るようになっていた。

 そうすると、コールの方もサニーを止めることを諦めて、ひたすら受け身に徹するようになっていた。

 今日もサニーが止まらないのを確認すると、羞恥の緩和のために彼女の上に毛布を掛けて自分からは見えないようにし、それから彼女の暴走が止まるのを待った。

『サニーの馬鹿。どうせ今日も、ごめんねコールさん、コールさんがかわいすぎたから、つい……とかって言って、僕にしたアレやソレを誤魔化すつもりなんでしょ! 毎回、毎回、かわいいって言えば人が絆されると思って! そりゃあ、僕だって本当は可愛いって言われるの、満更でもないよ。サニーは僕のこと好きって意味でも可愛いって使うみたいだし、それに、僕だって別に、サニーに触られるの嫌いじゃないし、キスだって好きだよ。でも、でもさ、限度ってあるじゃん。僕が駄目! って言ってるのに無視をするのは違うじゃん』

 自分の真上でウゴウゴと蠢く怪しい布の塊をギロッと睨み、コールがムギギを歯を食いしばる。

 今のサニーが嫌いになったわけではない。

 ただ、しいて言うのならば、自分が駄目! と叱った時にピタリと止まってくれるサニーの方が好きだった。

 そうして、やっぱりもうちょっと構ってほしいなとサインを出した時に甘く襲ってくれるサニーが好きだった。

 加えて、どんなに自分が制止をしても我慢してくれないサニーを見ていると、

「舐められているのかな?」

 とか、

「もしかしてサニーが好きなのは自分の体だけなのかな?」

 とか、

「サニーは僕の考えていることとか感情には興味がないのかな」

 とか、悪い方向への妄想がはかどって、大変なことになってしまう。

『サニーには僕が恥ずかしがって震えてるだけの小動物とか女の子みたいな存在じゃなくて、ちゃんと男性なんだって分かってほしいし、僕が最近、けっこう本気で怒っているのも、ちゃんと分かってほしい。だ、だから……』

 弱ったように眉尻を下げて、今だにコールを堪能しているサニーをチラチラと見つめる。

 コールはここ最近、寝る前に考えていたサニーへの仕返しを決行するか迷っていた。

『どうしよう、仕返ししてやりたいけど、でも、本当に実行したらサニーに嫌われちゃうかな。で、でも、僕の仕返しなんかよりもすごいことをサニーはしているわけだし、ちょっとくらい……』

 チラチラと何度も蠢く布の塊を見つめ、全く想定できないリスクとリターンを天秤にかけながら迷い続ける。

 そうしていると、モゴモゴ動いていた布の塊がいっぺんに自分の顔の方まで進んできて、髪をモチャモチャに崩したサニーが毛布の中から這い出てきた。

 頬を真っ赤にしてホコホコと体を温めるサニーは瞳をキラキラと輝かせており、表情には「すごく楽しかった!」と書かれていた。

 悔しいが、自分と触れあって幸せそうにしているサニーを見ていると絆されてしまい、ごめんね! と、謝られると何だかんだ許してしまうのも事実である。

『もしも今日、ちゃんと謝ってくれたら許してあげよう。次はちゃんと叱るし仕返しも辞さないけど、でも、今日謝ってくれたら、これまでの分はチャラにしてあげようかな』

 結局コールは、コール欲にまみれたケダモノに与えるにしては随分と優しい決断を下して、自分を見つめてくるサニーを仮面越しにジッと見つめ返した。

「サニーさ、僕に言うこと、無いの?」

「え? コールさんに言うこと? 今日も大変エッチでした?」

「違うよ。そうじゃなくて、僕、さんざんダメって言ったよね。それなのにサニー、僕にずーっとエッチなことしてたでしょ。過度にエッチなことはしないって約束とか、予約した場所には恋人になるまで悪戯しないって約束、どうなってるの?」

 コールの仮面は特殊な製法で作られているから何人たりとも外から彼の瞳を覗くことはできない。

 しかし、声のトーンや背後に蠢かせているオーラ、仮面を貫通する鋭い視線でサニーは彼の怒りを察したのだろう。

 シュンと体を縮め、マゴマゴと指通しを擦り合わせる彼女は、

「え、えと、先ほども言いました通り、キスはエッチなことに入らないというか、その、やはり雄っぱいを吸わせていただいたり、カプカプと甘噛みをさせていただいたりしてからでないと、立派なスケベへの仲間入りはできないと言いますか」

 と、言い訳にもならない言葉を並べ立ててコールに温情をもらおうとしている。

 上目遣いになってコールの顔を覗き込むサニーを、彼は冷たい瞳で睨みつけた。

「ふ~ん。それならサニーは、僕がどんなにダメって言って嫌がっても、『自分はエッチなことをしてないから』って言い張って、僕に悪いことをし続けるつもりなんだ」

「い、いや、そんなことは……」

「あるよね。あとサニー、多分だけど今、興奮してるでしょ。僕が『ダメ』と『エッチ』と『悪いこと』って、サニーが大好きな言葉を三つも使ってるから。前にも言ったかもしれないけど、僕、サニーのことだったら大体わかるからね。サニーの興奮ポイントは特にね」

「……はい、あの、おっしゃる通りです。加えて、コールさんに叱られるのも大好きなので」

「余計に興奮したの? 本当にどうしようもないね。このスケベ」

 コールの言葉にシッカリと宿る軽蔑に、サニーがビクッと肩を跳ね上げる。

 しかし、跳ねる肩の理由は怯えや恐れではなく、最愛に詰られたが故の興奮である。

 コールがサニーを許すか否かで揺れているのと同様にサニーもまた、どうしてもコールからの叱りにブチ上がってしまうテンションと、今はキチンと話を聞いて反省しなければマズイ! という心の間で揺れて葛藤していた。

 そんなサニーを見て、コールは、今回ばかりはキチンと彼女を叱ることに決めた。

 一緒の毛布に入ったまま、コールはガシッとサニーの腕を掴むと、モゾモゾと動いて彼女に覆いかぶさるような体勢になった。

「サニー、僕、怒ってるからね。サニーにされたこと、色々と返すから、すごく恥ずかしいと思うけど受け止めて、反省しなよ。途中で駄目って言われても、サニーとおんなじで僕も止まってあげないからね……それと、この件でサニーが僕のことを嫌いになること、許さないから」

 淡々と告げて、サニーの返事を聞く前に彼女の唇を自分の唇で塞ぐ。

 それから彼女に触れられた場所を彼女と同じように触れて、彼女に弄ばれた場所を同じように弄んだ。

『女の子って、どこも甘くて良い匂いがする。それに、俺なんかよりもずっと柔くてふわふわだ……!』

 ひっそりサニーに触ることはあっても、ここまで堂々と彼女に触れたのは今回が初めてだ。

 コールは布の中にできた暗がりの中で振れる温かさと柔らかさに感動していた。

 キスをして、吸って、齧って、舐めた。

 揉み込んだ。

 嫌われないよう、仕返ししすぎないようにすると心に決めていたはずだったのに、気がつけばコールはサニーに夢中になっていて、相当な悪戯を返していた。

『やりすぎたかも』

 乱れたサニーの衣服を毛布の中で一生懸命に直し、気休め程度に隠ぺい工作をしながら思う。

 普段から内気で、したくてもサニーのようにスケベさをみせられないコールだったから、今日という絶好の機会を得て溜め込んでいた性欲を爆発させ、彼は彼女以上のことをしてしまっていた。

 相手の全身を、全身で堪能してしまった。

 コールはいっさい服を脱がなかったし、守るべき境界も侵していなかったが、それでも結構なことをしてしまっていた。

『どうしよう、男性というかサニーの中で僕はオスとか猿とかになってそう。いや、間違いなくそうだ。自分でも、なんであんなに理性を保てなかったんだろうって思うし。やっぱり仕返しとか慣れないことを考えるんじゃなかったな。サニーのお肌は甘かったけど、現状はあり得ないくらい苦い』

 自己評価の低さが故か、コールはどんなにサニーが自分のことを好きなのだと分かっていても、ふとしたことをきっかけに彼女から酷く嫌われるようになると思い込んでいる節がある。

 もしもサニーから蔑みの目で見られていたらと思うとコールは恐ろしくて堪らなくなり、毛布の中から出られなくなってしまった。

 すっかり肌を隠し直したサニーの服の上にしがみつき、コールはプルプルと震えている。

 そして、そんなある種、身勝手な行動をとった彼の姿がサニーには、

「散々遊ぶだけ遊んで疲れたハリネズミがグッタリと巣穴の中で休息をとっている、ふてぶてしくも、かわいくて堪らない姿」

 に見えていた。

 サニーは、コールが「サニーに嫌われちゃうかも!」なんて怯えていることを全く知らなかったから、ギュッと抱き着いてくる彼の姿が自分に甘えているようにしか見えていなかったのだ。

 そのため、サニーは、

『けだものコールさん、イイ!』

 と、能天気に彼との行為を反芻していた。

 まあ、一般的な女性ならばどうか分からないが、ガッツリスケベされた程度でサニーがコールを嫌うわけがないという、ただその程度の話である。

 むしろ、サニーはコールへの愛しさを増してキュッと腕の中にある彼の頭を抱くと、自らも毛布の中に入り込んで汗ばむ頭にキスを落とした。

「はぁ……全く、駄目じゃない、コールさん」

 幸せをタップリ溜め込んだ溜息を吐くと、腕の中でコールがビクッと震えた。

「だ、駄目って何が? 僕、確かにちょっとやりすぎたけど、で、でも、サニーへの仕返しの意味合いだってあったし、それに、最初にサニーに『この件で僕のことを嫌いになるのは許さないって』ちゃんと言ったから」

 涙目になるコールが、何とかサニーに嫌われまいと必死の抵抗で言い訳がましい言葉を重ねる。

 しかし、サニーは「嫌いになる?」と不思議そうに呟くと、

「何の話?」

 と、首を傾げた。

「僕のこと、嫌いになったんじゃないの? サニーに、その、いっぱいアレとかコレとかしたから」

「嫌いになるわけないじゃない。むしろ良かったけど。駄目って言ったのは、あれよ。コールさんのアレコレがご褒美過ぎて罰にならなかったから反省できなかったって話よ」

 サニーは一応、なぜ自分が体を弄られる羽目になったのか理解している。

 だからこそ、イチャついている間にも何とかコールに機嫌を直してもらえるような言葉を探して脳をグルグルと動かしていたのだが、結局、サニーの中に湧いて出た最終的な答えは、

「コールからの罰という褒美ほしさに、彼に対してスケベを繰り返してしまうだろう」

 ということだけだった。

 サニーが照れながらそのことを話すと、コールは瞳を瞬かせた後、安心したように全身から力を抜いてピトッと彼女に抱き着いた。

「嫌われてなくてよかった」

「だから、私がコールさんを嫌いになるわけがないでしょうって」

「うん」

 ポフポフと背中を擦られて、コールが頬を緩めながら頷く。

「ねえ、サニー」

「なあに? コールさん」

「僕さ、サニーが僕のこと、自分の好きなように弄れるチョロい小動物だとか、サニーは僕の体だけが好きなんだとか、そういう風に思っていないことを確かめたくて、あと、僕は男なんだぞって言いたくて、サニーに仕返ししたんだ。伝わった?」

「ごめんね、コールさん。イチャついてる時は後半しか伝わってなかったわ。でも、前半も今聞いたから伝わったわよ」

「そっか。それでね、あのさ、サニーは僕のこと……」

「体とか顔だけじゃなくて、モジモジした性格も、怯えがちなところも、全部好きよ、コールさん」

 不安そうに眉を顰めるコールに先んじて言葉を出してやれば、彼が嬉しそうにパァッと表情を明るくする。

「僕も、その、サニーのこと、そうだよ。でもね、僕は僕が駄目って言った時に止まってくれるサニーの方が好きだったな」

「う……それは、だって、コールさん、駄目って言ってても触られて満更じゃないときあったから、良いのかなって」

「それは、そういうこともあったかもしれないけど、でも、僕は一回は止まってほしかったな」

「出来るだけ改善します、コールさん」

「よろしくね、サニー。僕も、できるだけ今日みたいな仕返しはしないようにするからさ」

 柔らかく微笑むコールにサニーの動きがパキリと固まった。

「え!? なんで!? 嫌よ、コールさん! むしろ私、コールさんにはもっともっと触ってほしいんだけれど!?」

「え、でも……」

「でも?」

「でも、その、本当は僕も触りたいんだけど、僕、今日みたいにある程度怒りに身を任せないと、その、まだサニーにはあんまりたくさん触れないというか、照れちゃって、駄目かも。布団にサニーを入れてあげるのも、多分、今日限りだ。それ以上は、僕の決心がつくまで、恋人になるまでお預けね」

 コールが消え入りそうな声でモジモジと恥ずかしそうに言葉を出す。

 キュッとフードの代わりに毛布をかぶって身を隠す姿に興奮したサニーは、静かに鼻血を出しそうになって必死で鼻をつまんだ。

 サニーは、早くコールと恋人になりたいと思った。

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