恋人以上、恋人未満
辺りが真っ暗になった頃、サニーとコールはまだ花畑でイチャイチャしていた。
一応、コールはフロネリア探しを続けているようだが、
「おっと、足場が悪いから上半身が滑っちゃった。ごめんね、コールさん」
と、わざとらしくコケ、彼の屈んで突き出たお尻に抱きついているサニーは絶対に花を探していない。
スケベなサニーは、その日によって特に触れたり干渉したりしたくなるコールの部位が変動する。
ある時は唇を執拗に眺め、また、ある時は大興奮で太ももを追い、更にある時には雄っぱいに触れようと頭を悩ませたことがある。
今日のサニーは普段から大好きなコールのお尻に心を奪われていて、隙あらばお尻を堪能させていただこうと静かに機会を狙っている。
夜になって周囲が暗くなってからは活動しやすいのか、だいぶ大胆に動くようになっていた。
「ちょっとサニー、抱きついちゃったのまではいいけど、揉みまわさないでよ。絶対わざとでしょ。分かるからね! 暗くてもサニーの視線は感じるんだから」
「ふへへ、お尻。コールさんのモチ尻……いや、違います、コールさん。足場が悪い上に暗くて見えにくいから、起き上がろうとすると触らざるを得なくなってしまうんです。ほら」
厚顔無恥な変態がガシッとお尻を小さな手のひらで鷲掴みにしてムニムニと揉みまわす。
不可抗力とうわごとのように呟くサニーの鼻息は異様に荒い。
起き上がるために掴んだという建前は欲望を前にして消え去ったようで、感触を味わうために手のひらに全意識を集中させ、柔らかく揉みまくっている。
流石に看過できない段階に入ったため、コールがペシンとサニーの手の甲を叩き落した。
「そんなに動きにくいって言うなら僕が起こしてあげるから大人しくしててよね。ちょっとサニー、大人しくしてったら!」
「暗いのが悪い! 暗いのが悪いの、コールさん!!」
コールが本格的にサービスタイムをお開きにしようとしているのを感じると、触れなくなることを危惧したサニーがギリギリまで彼に触れようと服の上からお腹を撫でまわす。
「駄目だったら、もう!」
腹をくすぐられて恥ずかしくなったコールがサニーのイタズラな手をグイッと前に引っ張った。
すると、つられて前のめりになったサニーが「キャッ!」と悲鳴を上げてコールのお尻に右頬をぶつける。
「わ! サニー、大丈夫!? 口の中、切ってない? ごめんね」
自身のお尻に走ったドムンという衝撃で事態を悟ったコールが慌てて後ろを振り返る。
そして、サニーの右頬に手を当てて心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。
これに対してコールのお尻にぶつかるなど、ご褒美でしかないサニーが中途半端に唇の開いたポワンと夢見がちな表情で柔らかく弾力のある贅肉の感触を噛み締めていた。
『コールさんのお尻がムチッてなった部分を心配そうなコールさんのおててが優しく撫でている。これぞ至福。ありがとう、ラッキースケベ。愛してる、ラッキースケベ。大いなるラッキースケベの神よ。私に更なるコールさんのお尻を与えたまえ。もう一度ムチッてなったら、次は躊躇なく嗅ぎます』
心配するコールにサニーは虚ろな目で「大丈夫よ」とだけ返して、熱心に星へ祈りを捧げた。
すると、スケベ心のお恵みの代わりに一凛のまばゆい光を放つ星花が夜空から落っこちてきた。
「あら? 誰かがフロネリアを見つけたみたいね」
「本当だ。祭りの前からログが絶対にフロネリアを見つけるんだって意気込んでたから、ログが見つけたんだといいな」
「そうね」
毎年祭りに参加していたサニーはもちろん、深夜、村人たちが全員帰宅した頃を見計らって外出していたコールも、辺り一面で夜闇に対抗して咲き誇り、輝く星花の群れを楽しんだことがある。
何度も奇跡の光景に感動させられてきた二人だが、しかし、どちらとも愛しい人の隣で星花を眺めたのは初めてである。
『こんなに綺麗な星花を見たのは初めてだ。サニーが隣にいるからだよね』
チラリとサニーの横顔を確認する。
淡い光を反射する真っ白な頬は自ら発光しているかのようで、キラキラと光の散りばめられたオレンジの瞳に花畑が映りこんでいるのが美しかった。
降ってくる花を見上げる目も、上がる口角も、上気した頬もかわいらしい。
『サニー、かわいい。サニーは僕のことを妖精みたいだとかっていうけど、淡い光に照らされてるサニーの方がよっぽど妖精みたいだ。そうじゃなければ、天使、とか』
少しきざなセリフは思い浮かべるだけでなんだか恥ずかしくなってしまう。
コールも頬をほんのり厚くしながら、花そっちのけでサニーを眺めた。
段々と視線が興味のある部位へと動いて、気がついたらコールはツヤツヤとしたサニーの唇を見つめていた。
『僕たちは付き合ってない。だから、恋人じゃない。でも、それでも一応、僕に凄い思い違いとかがあるわけじゃなければ、僕ら両想いなんだよね。それなら、キスをしても大丈夫かな? でも、早いかな。嫌い! 気持ち悪い! 性欲スケベって怒られちゃうかな』
いずれの文句も、口が裂けてもサニーが言えるような言葉ではない。
だが、内気で悩みがちなコールが悶々としていると、陽気で衝動的に彼にじゃれるサニーが、
「コールさん!」
とだけ声をかけて、彼を押し倒した。
それから仰向けに寝転がるコールに馬乗りになって、グッと彼へ顔を近づける。
「コールさん、ゴロンして、大人しくしててね」
耳元で小さく囁くと、それから丸っこい牙のチラつく口角をニンマリと上げてコールの耳や首を嗅ぎ始めた。
「え!? 何!? サニー、何のつもり!? ひゃ! くすぐったいよ!」
耳全体が鼻息でくすぐられるのはもちろんのこと、直接首筋を嗅ぎ違ったサニーがネックウォーマーの中に鼻を突っ込むものだから、ぬくぬくと温められていた敏感な皮膚が細かく動く鼻先にくすぐられて、もどかしいような低刺激を受けるようになる。
恥ずかしさで耳が真っ赤に染まり、くすぐったさで肩や腹などの腹筋が細かく揺れ動く。
コールが体をやんわり苦の字に曲げても、クツクツと笑う声が聞こえても、サニーは彼を無視してひたすらに体臭を嗅いだ。
『コールさんの匂い。何故か無性に嗅ぎたくなる柔軟仕上げ剤の奥にあるワイルドで柔らかい体臭。もっとください。おかわりください』
真っ白に近くなるサニーの脳内はひたすらにコールのことで埋め尽くされている。
フスフスフスフスフスフスとひたすらに嗅ぎまわしてくすぐると、唐突に満足をして鎖骨と鎖骨の間の辺りに埋めえていた顔面を持ち上げた。
すると、小さく笑い続けていたコールもようやくサニーに解放されたことで全身からクタリと力を抜き、休憩することができるようになった。
先程までは緊張していた四肢もすっかり緩んでおり、手のひら全体はだらしなく広げられている。
全身に細かい汗をかくコールは真っ赤だ。
「結局、なんだったの……」
ホコホコと湯気を出す顔面を熱い両手で覆い隠しながら問いかける。
すると、弱ったコールにご満悦のサニーがフフン! とドヤ顔で口角を上げた。
「ほら、さっきコールさんに引っ張られて私のほっぺがコールさんのお尻にぶつけられちゃったじゃでしょう? だから、その仕返しよ。それに、首や耳には香水をつけていなかったのか、気になってたし。ふふ、結局付けてなかったのね、コールさん。コールさんのスケベな匂いが魅力的過ぎて、すっかり虜になっちゃったわ」
ふにふにと真っ赤な耳たぶを揉みこんで遊ぶ。
そして、もう片手でネックウォーマーの中に手を突っ込み、ゾワゾワと首筋をなぞった。
すっかり皮膚が敏感になっているのか、特に首筋に触れたり耳の軟骨の部分や頬に近い部分をなぞるとコールの体が軽くビクつく。
「さっきのことは許してよ、サニー」
細かく震える声は少し泣いているような困った響きが感じられる。
愛欲を増加させるコールの弱った甘え声だ。
「ふふ、嫌よ、コールさん」
チュッと耳たぶにキスを落とせば、コールの体が緊張して硬くなった。
『最高だわ! いっつもは駄目だよって私を退かしちゃうコールさんが、プルプル震えて怯えたハリネズミさんムーブをしながらスケベされてる!! コールさん自爆型の不可抗力タイプなラッキースケベはこれだから堪らないのよ。一度目が美味しいのはもちろんのこと、二度、三度とネタを擦って更なるスケベを享受することも可能なんだもの』
コールに叱られるのも大好きだが、困らせるのも大好きなサニーだ。
彼が一生懸命に顔面を覆う節くれだった指の隙間から涙らしき雫が伝っているのを見ると、どうしても甘い嗜虐心が湧き立つ。
キュンと鳴った心臓が激しく拍動して、全身へ送る血液に興奮と愛欲を混ぜ込む。
もっと困らせたくて、意地悪したくて堪らなくなった。
「ねえ、コールさん」
甘えた声を出して、コールの顔を覆う両手を軽く左右に引っ張る。
サニーの「顔を出せ」という無言の要求にコールは初め小さく首を振っていたのだが、
「ねえ、お願い、コールさん」
と頼み込まれると、
「悪い事しない?」
と、問いかけながら指の隙間を広げて仮面越しに彼女の顔を確認した。
ハリネズミが巣穴から顔を覗かせ、外敵がいない確認するような仕草が以上にかわいらしくて堪らない。
サニーの愛情メーターが振りきれた。
『悪い事!? 悪い事しない!? そんなのもちろん悪い事したいに決まってるじゃないですか!! そんな言われ方したら、その気になっちゃいますよ!! 罪作りなコールさん!! ありがとうございます!!』
鼻息の荒い真っ赤な顔のサニーがコクコクと激しく頷く。
するとコールは「本当に?」と眉をひそめたが、やがてゆっくりと両手を取り払った。
「コールさん。愛しくてかわいいコールさん、大人しくしていてね」
サニーがコールの両頬に手を添える。
そして額に、鼻の頭に、頬に、ゆっくりとキスを重ねていく。
アムッと甘噛みをすると、仮面の中にあるコールの瞳がまん丸になった。
「サニー、待って! だって、悪い事しないって!」
焦ったコールが大慌てでサニーの顔を押しのけて彼女の表情を覗き込む。
すると、意図せずサニーの猛禽類のような獲物を狙い、貪る瞳と目が合ってしまって、コールは真っ赤になったまま蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「コールさん、いい子」
優しく頭を撫でられると心地が良くて、一瞬油断した隙にサニーが自身の唇をコールの唇へ重ねる。
互いに舌を突っ込んだわけでもないのに、何故かキスをされた瞬間から息を止めてしまったコールが唇を離された後、酸欠のようになって顔を赤くし、淡い呼吸を繰り返すようになる。
半開きの唇から小さな吐息が漏れる様子をサニーが愛おしげに眺めて頬を撫でた。
コールが弱って口数を減らしている間に首や耳、セーターから引っ張り出した鎖骨、手首なんかにもキスを重ねていく。
やがて、満足すると先程と同様にサニーはニマニマを笑いながら体を起こした。
コールの過剰摂取で体が健康に、元気になっていくサニーとは引き換えに貪られたコールはますます茹って、弱っていた。
「悪い事しないって言ってたのに、今度のは何だったの?」
何だかんだとコートを脱いでしまっていたため引きこもるための衣類を失ってしまっていたコールが苦し紛れにネックウォーマーを広げて顔面を押し込む。
編み目が荒いから窒息の心配はなさそうだが、既に熱く鳴った顔面を毛糸の塊で包むことを考えれば、コールの頭は蒸し焼きになってしまいそうなほど高温になりそうだ。
「あら、コールさんにはキスが『悪い事』だったの? 私にはイイことだったのに、残念だわ」
自らの唇を人差し指で押さえ、揶揄うような口調でサニーが笑う。
コール自身、キスが嫌だったわけではない。
というか、サニーから愛情表現が本気で嫌だったのならば、彼女に押し倒された時点で逃げたり反撃したりできる物理的な力と精神力をコールは備えているため、今日の拒否も、
「どうしてもって言うなら、ちょっとだったらスキンシップしてもいいけど、でも、サニーってスケベさんだよね。チラチラ!」
という、いつものじゃれ合いの延長である。
サニーに構われなかったら拗ねてしまう癖に襲われると文句を言ってしまうのは何故なのだろうか。
羞恥が故だろうか。
少し手間のかかる性格をしているコールだが、そんなところもサニーにとっては重要な魅力の一つである。
「僕だってキスが悪い事だなんて思ってないけど、でも、だって……エッチなことしないでって言えばよかった」
弱ったままでコールがモゴモゴと言葉を出すと、途端にサニーがカッと目を見開く。
「エッチ!? 待ってコールさん! 駄目!! したくなる!! そんな可愛い言葉を使われたら、エッチな事したくなっちゃう!! あれ!? もしかして私の特性を理解したコールさんからの、かわいい、かわいいお誘いの言葉だったりしますか!? 今のって!? いいんですか!?」
「違うよ、サニーのお馬鹿」
色めき立つサニーの言葉をはっきりと首を横に振って否定すれば、彼女は「そっか」とガックリ肩を落とした。
「ノーと言えるコールさん、好きよ。スケベしたかったけど……さっきのはね、予約なの、コールさん。本当の恋人になれたらコールさんにたくさん悪戯をしたいと思ったから手の届く範囲で特に好きな部位にキスをして、ここを触って良いのは私だけですよって予約をしたの。守ってくれる?」
少し真剣な声色のお願いにコクリとコールが頷く。
「よかった。そしたら、恋人になれたら、今よりも過剰にスキンシップをとることも、許してくれる?」
二つ目のお願いも一瞬、渋りかけたが、一度目と同じようにコクリと頷いた。
「よかった。好きよ、コールさん」
「…………僕も」
コールが小さく肯定し返すと、嬉しそうなサニーが彼から降りて寄り添うように抱きついた。
「サニー、僕、汗をかいているから脇の下に入るのやめて。その、変な匂いするでしょ」
大きく広げた脇のすぐ下に潜り込んで顔を衣服へ押し付けるサニーにコールが苦言を呈する。
だが、彼女はフルフルと首を横に振った。
「嫌よ! むしろ汗をかいてない時に入ってどうするの! ワイルドな匂い~!」
「変態」
ギュムムと抱き着いて離れないサニーにコールが真っ赤な顔で少しだけ毒を吐く。
モジモジと落ち着かない様子で身じろぎを続けていると、サニーが衣服から顔を上げてコールの顔を覗き込んだ。
相変わらずネックウォーマーで封じられた彼の恥ずかしがり屋な態度がかわいらしくて笑ってしまう。
「ねえ、コールさん、私達は恋人じゃないけれど互いに両想いな状態ではあるわけじゃない」
「うん」
「だから、今日からちょっとずつスキンシップを増やしていきたいの。あんまりにもスケベな事はしないけど、でも、鼻にキスをしたり、二の腕に抱きついたり、もうちょっと過激なこともしたいわ。きっと、コールさんが梟さんや貝になる事ばかりしちゃう。だから、覚悟しておいてね」
ニッと弾んだかわいらしい挑戦状にコールが小さく頷く。
それから少しすると、コールは顔に被せていたネックウォーマーを首元まで下げてサニーの顔を覗いた。
そして、キュッとサニーの柔い体を抱き締め、自分の方へ押し付けると震える吐息の漏れ出る唇で彼女の頭にキスをした。
「サニーも、覚悟して」
小さな声でボソッと言葉を紡ぐ。
少し震えているが、どこか艶っぽい囁き声だ。
コールのレア度が高い攻めにテンションが爆上がりする。
鼓膜がゾワゾワと揺れ、サニーの瞳の奥に無数のハートが浮かび上がった。
『覚悟させてください、コールさん!!!!』
ギュギュッとコールを抱き返し、透明な蛇の尻尾をグルグルと彼の足へ巻き付けたサニーが声なき奇声を発した。
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