第3話 電車

 帰り、二十三時。今日は結構疲れた。男は電車を待つ列に並ぶ。

 電車の到着を知らせるアナウンスが入った。猫背気味にスマホを見ていると、横目に制服が動くのが見えた。顔を向けると、女性が、女子が、一歩目を間違いなく線路に向かって踏み出していた。ホームを歩く他の人々の歩みとの違いはその少しの力強さ以外にはないかもしれないけれど、男にはそれが飛び込みのはじめの一歩だと間違いなくわかった。

「次の電車まで待ってもいいんじゃない?」

 女子がこっちを見て止まった。

 腑抜けた汽笛を鳴らしながら、電車の顔が通り過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る