第68話
・side: 安西詩織
お嬢様である白鳥結奈から、鈴木一さんと結ばれたと報告を受けました。
自分よりもずっと年下のお嬢様が先に経験したという事実は、少しだけ取り残された気持ちと、鈴木さんへの気持ちを理解してしまった。
胸の痛みを感じることになりました。
ただ、嬉しいのはわかるのですが、お嬢様は何度も何度も私に聞かせてくる。
最初は微笑ましく、彼女の幸せを喜んでいたはずなのに……次第にその話が私の心に複雑な感情を巻き起こすようになった。
「ねえ、詩織さん。オジ様と昨日も一緒に過ごしたのよ。彼の優しさに感動するの」
「よかったですね」
「ねぇ、詩織さん。あなたには気になる男性はいないのかしら?」
お嬢様は、知っているはずだ。
気づいているはずだ。
何度も繰り返して、聞かせてくるのは私の心をざわつかせるためにしている。
自分の中に抑えきれない感情が溢れ出すのを感じてしまう。
鈴木さんのことを大切に思っているのは私も同じなのだから。
それを知りながら、お嬢様の幸せを優先するべきだと自分に言い聞かせてきた。
でも、次第にその思いが私の中で膨れ上がり、制御不能な感情となっていく。
自分の醜さが嫌になる。
「詩織さん、オジ様は本当に素敵な方ですよね。あなたもそう思わない?」
お嬢様の目は、どこか挑戦的な輝きを帯びていた。
まるで私の心を試すかのように、わざと何度も繰り返すその言葉に、私は心の中で静かな怒りを感じた。
「はい、お嬢様。鈴木さんは素晴らしい方ですね」
それしか言えない自分が、もどかしかった。
「そうでしょう? オジ様の優しさをあなたにも知って欲しいわ」
鈴木さんの体に触れた時の感触や、優しい言葉、温かい抱擁について熱心に話し始めた。
「オジ様の手、すごく大きくて温かいの。それに、私が不安になった時、優しく頭を撫でてくれるの。とっても安心できるのよ」
私だって、彼と一緒に秋葉原を歩いて、カフェに入って……。
何を考えているのだろう。
内心で、何かが壊れていくような感覚に襲われた。
「お嬢様、もうその辺で…」
しかし彼女はさらに続ける。
「それに、オジ様の胸板に抱かれると、本当に安心するの。彼の鼓動を感じながら眠ると、まるで全てがうまくいくような気がするのよ。詩織さんも感じてみたら、わかるかもね」
彼女の言葉など聞こえてはいない。
私はもう限界だった。
ある日、鈴木さんが一人になる日があり、また二人きりになる機会が訪れた。
鈴木さんは、リビングでくつろいでいた。
私の心はすでに限界に達しており、彼に対して何か言わずにはいられなかった。
「鈴木さん、少しお話があります」
彼は驚いた表情で私を見上げた。
「どうかしましたか、安西さん?」
彼の優しい声に、私の中で抑えきれない感情が一気に溢れ出す。
「お嬢様から、何度も何度もあなたとの話を聞かされて、正直なところ、我慢の限界です!」
私の声は思わず大きくなり、鈴木さんも驚いた表情を見せた。
「詩織さん、そんなに怒らないでください。私で良ければ、話を聞かせてください」
彼は冷静に、しかし心配そうに私を見つめている。
「お嬢様があなたをどれだけ大切に思っているのか、毎日聞かされているんです。あなたの優しさや、温かさ、そして…その体の素晴らしさまで」
私は顔を赤くしながら続けた。
涙が、感情が、溢れ出していた。
「それを聞いていると、自分の気持ちがどんどん膨らんで、もう抑えきれないんです。私も、あなたを…大好きなんです!」
彼に対する自分の気持ちを、ついに言葉にしてしまった。
「私も、鈴木さんのことが好きなんです。ずっと、お嬢様を救ってくれたあの日から、どんどんあなたに惹かれていました。お嬢様がいるからこんなこと考えてはいけないって思いながら、もうどうすればいいのかわからなくて…」
鈴木さんは一瞬驚いた表情を見せたが、やがて優しく微笑んだ。
「詩織さん、ありがとうございます。あなたの気持ちは嬉しいです。でも、私はまだ混乱しています。安西さんのような素敵な方に、そんな風に思われていたなんて知らなかったので。ただ、私もずっと安西さんのことを大切に思っていましたよ。もしも、良ければあなたの気持ちにも応えたいと思っています」
彼の言葉に、私は救われた気がした。
彼の胸に飛び込んで、たくさん泣いて、たくさん甘えた。
お嬢様が教えてくれた通り、それはとても幸福な時間で、いっぱいお嬢様に謝ろうと思った。
ーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
おまけの話、第二弾です。
楽しんでもらえると嬉しいです(๑>◡<๑)
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