第60話

 安西さんがユナさんのことを心から大切に思っているのが伝わってきました。


 そして、彼女が真摯に答えてくれることを理解できたので、私は安西さんにもう一つ問いかけてみることにしました。


 この質問は私としても勇気を振り絞ることになります。


 この世界では、女性からの好意を感じることが多いのですが、安西さん個人としては、私をどう思っているのかを知りたかったのです。


「安西さん、正直に聞きたいんですが…。あなたは私に好意を持っているんですか?」

「ブフォ!!!」


 安西さんが美味しそうに飲んでいたミルクティーを吹き出しました。


「うわっ?!」

「なっ、なんですかいきなり?!」

「いえ、素朴な疑問で……」


 彼女は戸惑い慌てふためきながら視線を彷徨わせています。

 震える手でカップに手を伸ばして口元に持っていきますが、ちゃんと飲めていません。


「え、えっと…鈴木さんがそんなことを聞くなんて思ってもいませんでした」


 彼女は紅茶を一口飲んでから、少し赤くなった顔を伏せたまま続けてくれました。


「…あの、私も女性ですから、魅力的な男性に興味を持つことはあります。鈴木さんが特別な存在なのは確かです。でも、だからって…お嬢様のこともありますし」


 しろどもどろな態度は見ていてちょっと面白かったです。

 彼女の声に、微妙な変化があり、嫌われていないことは伝わってきました。


「もし私が安西さんにとって魅力的な存在に見えているなら教えて欲しいです。私はこんなオジさんで、ユナさんや安西さんと歳が離れすぎていて自信がモテないのです」

「……そういうことですか」


 安西さんは深く息を吸い込み、再び私を見つめます。

 その目には真剣さが宿っていました。


「…鈴木さん、あなたは私にとって確かに特別な存在です。お嬢様のために尽くす姿勢や、他の女性に対する優しさを見ていると、尊敬の気持ちが芽生えます。でも、それ以上のことは言わせないでください」


 彼女の言葉には、私への好意が込められているのがわかりました。

 真面目な彼女を辱めてしまったことを謝らなければいけません。


「申し訳ありません。気持ちを言わせるようなことをしてしまって。ただ、安西さんから寄せられる気持ちを嬉しく思います。本当にありがとうございます」


 私が謝罪とお礼を口にすると安西さんは黙ったまま視線を逸らされました。


 他の三人といる時よりも、心が穏やかにいれるような気がして。


 安西さんという女性の人柄の良さが伝わってくるような時間でした。

 

「本日は買い物にお付き合いいただきありがとうございます」

「何を言われているのですか? 私は尾行をしていただけです」

「ふふ、それは内緒だったのでは?」

「あっ?」


 デートと尾行を天秤に掛ければ、仕事だという方が体面が良いのかもしれませんね。


「また機会があれば、どこかに行きましょう」

「ふん、私はあなたの監視をするだけです」


 桜木さんや青羽さんと会っている時もユナさんはどこかで監視をつけていたのかもしれませんん。


 私が気付いていないだけで。


 まぁそれだけ大切にされていると思っておきましょう。

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