第48話
一週間に一度、青羽さんと直接会って女性の気持ちを学ぶ日がやって来た。
「クゥ、君に話を聞いてもらったから、本日から気合いを入れていこうと思います」
「ミャ〜」
青羽さんに効果があるのかわからないのですが、今日は特に気合を入れて、身なりを整えてみました。
普段もそこそこに清潔感は意識をしているのですが、本日は事前に美容室にいって、髪の毛をセットしやすいように切って、指導をしてもらいました。
それに前に青羽さんが女性が好む服を聞いていたので、髪型も少しアレンジしてみた。
鏡に映る自分を見て、少しだけ自信が湧いてきます。
「雰囲気イケメンには見えるようになりましたかね?」
クゥも「ミャー」と鳴いてくれます。
「よし、行ってきます、クゥ」
クゥに別れを告げ、私は青羽さんとの待ち合わせ場所に向かいました。
街を歩くと、たくさんの女性が歩いていて、少し私の方に視線を感じます。
普段でも、スーツに冴えないおじさんとして通勤している時も、視線は感じていたのですが、今日はいつも以上に多いと思います。
♢
電車が停車して男性専用車両を降りると、女性たちから視線が集まりました。
確かに普通の男性は太っていて、清潔感を意識している方は少ないですが、ここまで反応があると、正直ビクビクしてしまいます。
カフェに到着すると、既に青羽さんが待っていました。
無事に到着できて、ホッと胸を撫で下ろして、彼女の前に座ります」
「こんにちは、お待たせしました。青羽さん」
挨拶をして声をかけると、本を読んでいた青羽さんが顔を上げて、私の姿を見ると目を見張りました。
「鈴木さん...! 今日はなんだか雰囲気が違いますね」
「そうですか? 女性の気持ちを理解するために、私自身も身嗜みを整えてみました。いかがですか?」
「……とても素敵です」
青羽さんは呆然とした顔をして、頬を少し赤く染めています。
いつもはクールな印象の彼女が照れているのがわかる程度には、身なりを気にしたことは悪くなかったようです。
彼女をこんな風に動揺させることができて、少し楽しいです。
「ありがとうございます、青羽さん。今日も私に女性について色々と教えていただけますか?」
「はっ、はい! もちろんです!」
青羽さんは少し落ち着かない様子でメニューを見てはこちらをチラチラとみてきます。
そんな彼女に私は微笑みかける。
「ッッッ!」
すぐに顔を隠してしまいました。
その反応が可愛くて、なんだか楽しくなってしまいます。
「青羽さん、今日はどんな話をしましょうか?」
「そ、そうですね…。まずは、女性の心理についてもっと深く掘り下げてみましょうか」
「そうですね。例えば、女性はどんな時にときめきますか? もっと具体的に教えていただけますか?」
「えっ!? トキメキですか?!」
青羽さんは私の質問に戸惑っていましたが、すぐに真剣な表情で答え始めました。
「女性は、不意打ちやサプライズなどをされると、ときめくと思います!」
「なるほど。それは確かに大事ですね」
私は青羽さんの話に耳を傾けながら、彼女の視線が私に向けられる度に微笑みかけます。すると、青羽さんはますます緊張しているようでした。
「鈴木さん、今日はいつもと雰囲気が違いすぎませんか?」
「そうですね。自分なりに頑張ろうと思ったんです」
「頑張る?」
「はい。私は今まで流されるままに生きていました。ですが、それは自分が求められるという経験がなかったからです」
そうだ。今までの人生に自分が求められることはなく、ユナさんほど私を求めてくれる女性は前世と今世を合わせて初めての経験でした。
「ですが、今は、ユナさんや花井さん、そして青羽さんから求められています。それが嬉しくもあり、頑張ろうと思える原動力になっています」
変わる理由には十分ですね。
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