第47話
・side: 鈴木一
朝の光が窓から差し込み、目を覚ました。
豪華なキングサイズのベッドはユナさんが用意してくれた家具の一つで、ここで生活することにも随分と慣れてきた。
最初は気後れしていたが、寝ていれば最高級ベッドの寝心地の良さは理解できる。
しかも、1日に一度はハウスキーパーさんがやってきて、部屋の片付けや洗濯などをしていってくれるのだ。
家事をするという時間を取られない。
一人暮らしの時は全て自分で、しなければいけなかった。
これがこの世界の理想である、女性に養ってもらうヒモ男性の生活なのだろう。
だが、落ち着かないので、朝の時間は誰もいない部屋の中で、ゆっくりと起き上がり、まだ眠そうな黒猫のクゥと共に目を覚ます。
クゥは朝になるとベッドの中にやってきて、一緒に眠ってグルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らす。
そんなクゥが足元で伸びをしているのを見て癒される。
「おはよう、クゥ。今日もいい天気だね」
クゥは「ミャー」と鳴いて、私の言葉に応えるように見上げてくる。
その愛らしい姿に心が和む。
ベッドを出て、まずはキッチンに向かい、コーヒーを淹れる。
クゥも一緒についてきて、水とキャットフードにドライフードのふりかけをかけて提供する。
これが、引っ越してからのモーニングルーティンになりつつある。
「クゥ、今日は少し話をしようか。最近、色々と考えることがあってね」
コーヒーを淹れて、クゥが食べている横に腰を下ろす。
クゥはご飯を食べながら、私の顔をチラチラ見つめてきたが、私はコーヒーカップを持ちながら、クゥに語りかけた。
「実は、私はね。鈴木一という男性の体に憑依した転生者なんだ。元の世界では女性の気持ちが全くわからない朴念仁でね。だから、恋愛経験もほとんどなくて、仕事ばかりに追われていたんだよ」
クゥは首をかしげて、「ミャー」と応える。
その姿がまるで「続けて」と言っているように感じられて笑ってしまう。
「この世界に来て、ユナさんや花井さんと出会って、初めて女性から好意を向けられるという経験をしているんだ。数日は戸惑ったけど、青羽さんが解説してくれたことで、やっぱり彼女たちが好意を向けてくれているって確信を持てたんだ」
この世界は貞操逆転世界で、女性が積極的に男性に好意を持つことがあるんだと、言われても理解できなかった。
だけど、三十五歳を超えても、男性に隠して保護官が付くぐらいに、男性を大切に扱う世界であることは理解できた。
「でも、正直なところ、どう向き合っていいのかわからないんだよね」
コーヒーを一口飲み、思考を整理しながら続ける。
その間も美味しそうにご飯を食べるクゥは幸せそうだ。
「ただね、やっぱり綺麗で若くて、一番私のことを考えてくれているユナさんは特別な存在だって思えるようになってきているんだ。彼女はいつも優しくて、私のことを大切に思ってくれているのはわかる」
クゥは食事を終えて、口元をメロメロと舐めとると、私の膝の上に登ろうとするので、抱き上げてリビングの広いソファーへ移動した。
「でも、最近少しずつ気づいたんだ。ユナさんの気持ちに真摯に向き合わなければ、僕自身も成長できないし、彼女を幸せにすることもできないんじゃないかってね。う〜ん、年齢が離れている問題はやっぱり引っかかるんだけど、それって逃げているだけだとも思うんだよね」
女子高生であるユナさんから、距離を置いて逃げているおじさん。
クゥは「ミャー」と優しく鳴いて、お前が悪いと言っているように思う。
「だから、私は決めたよ。女性たちの気持ちにしっかりと向き合うことを。ユナさん以外にも、彼女たちがどれだけ私を支えてくれているかを理解したからね。それに応えるために、私ももっと努力するつもりだ」
クゥは膝から降りて、ぬくもりだけが残っている。
「話を聞いてくれてありがとう、クゥ。君のおかげで、自分の気持ちに整理できたよ。女性に押されてばかりではいけませんね。反撃できるように頑張るよ!」
クゥは「ニャー」と鳴いて、私に応える。
その姿が、まるで「がんばれ」と言ってくれているように感じた。
朝のルーティンを終え、私は新たな一日を迎える準備を整えた。
ユナさんや他の人たちに対して、自分が思う形で、もっと強く、優しく、そして真剣に向き合うために。
今日から、少しずつでも前進していくための一歩を踏み出す。
クゥと一緒に、私は新たな決意を胸に、一日をスタートさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます