第44話

 ・side: 青羽美玲


 鈴木さんの言葉が、まるで心にクリティカルヒットしているかのように感じました。彼の優しい声で褒められるたびに、胸がドキドキしてしまう。


「グッ!」


 男性に褒められるのが、こんなにも幸せだなんて……!!!


 男性から、清潔感があって美人だなんて…。


 そんなことを言われたのは初めてです。

 私は冷静を装いつつも、内心では舞い上がってしまっています。

 こんな気持ちになるなんて、予想もしていませんでした。


 彼の一言一言が、私の心に深く刺さり、そのたびに喜びが溢れてきます。

 彼が私を褒めてくれることが、こんなにも嬉しいなんて…。


 ♢


 デートシミュレーションを終えた私は、鈴木さんの前では冷静さを保ちつつも、内心では彼の優しさに心が温かくなるのを感じていました。


「鈴木さん、本日はお疲れ様でした。次回も楽しみにしています」

「こちらこそ、ありがとうございます。次回もよろしくお願いします」


 鈴木さんと別れた後、私はほっと一息つきました。

 彼との時間は本当に貴重で、私にとっても成長の機会です。

 男性のことをわかっていなかったのは、私の方も同じです。


 気分が良くなって、スキップしてしまいそうになります。


 浮かれている私の前に、見覚えのある女性が立ちました。

 

 白鳥結奈、鈴木さんを支援しているスワングループの次期当主。


 彼女は私に微笑みを浮かべて、近づいてきました。

 背中にゾクリと悪寒がした。


「青羽さん、こんにちは」

「ええ、白鳥さん、こんにちは。何かご用ですか?」


 彼女の微笑みには何か意図があるように感じましたが、その真意は読み取れません。

 

 鈴木さんが言っていた、理解できない白鳥さんの態度に、私はまるでライオンに睨まれているような感覚を覚えます。


「ちょっとお話があって、お待ちしていました。お時間いただけますか?」

「もちろんです!」


 私は彼女の誘いに応じ、近くのカフェに入りました。


「青羽さん、オジ様とのデートはいかがですか?」


 全てを理解しておられる。


「デートではありません! 練習です!」


 私は、つい声を大きくして、早口で話してしまう。


「ふふ、何をそんなに慌てているんですか? ただ、感想を聞きたいだけですよ」

「……そうですか、とても充実した時間でした。鈴木さんのために色々とサポートさせていただいております」


 白鳥さんは私の話を聞きながら、優雅にお茶を飲む。

 その姿も様になっていて、年下の彼女に自分が翻弄されていることがわかってしまう。


 私と違って、内心から滲み出る上品な姿に劣等感を抱いてしまう。



・side: 白鳥結奈


 青羽美玲さんという女性を見極めるため、私は内心ほくそ笑んでいました。


 オジ様は自覚なく、次々と女性を虜にしてしまう。

 私は正妻として、ちゃんと女性たちを管理しなくてはいけない。


 そのために上下関係はハッキリとしないといけないわね。


 花井杏樹さんは、天然な女性でとても可愛い人だった。


 だけど、青羽美玲さんは、仕事ができて年上。

 オジ様を私よりも先に知っていることから、私は彼女との上下関係をハッキリさせなければいけない。


 ですが、彼女はどこかオジ様と同じ人柄に感じられる。

 こちらの思考を理解できなくて、混乱しているように見えます。


「ねぇ、青羽さん。あなたって」

「なっ、なんですか?」

「ムッツリスケベなのかしら?」

「なっ!?」

「ふふ、あら、図星なんですか?」

「……それはパワハラでは?」

「私は青羽さんの上司でも、目上でもありませんよ」


 彼女の発言に私は笑ってしまう。


 図星を突かれて顔を赤くする青羽さんは、とても面白い女性だわ。

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