第38話
・side鈴木一
ユナさんと花井さんがリムジンの中で話をしている間、私は公園のベンチに座って待っています。
ユナさんの笑顔に圧力を感じてしまいました。
あれは怒っているのでしょうか? 好意を寄せていただいているのに、別の女性と仲良く歩いているのを見られて怒っているのでしょうか?
花井さんは友人として、とても良い人です。
女性として見ていないのか? そう聞かれたら、正直に言えば癒しの存在で、友人だと思いながら、女性として見てしまっている自分がいます。
リムジンの方へ視線を向けますが、中の様子は分かりません。
しばらくして、二人がリムジンから降りてきました。
ユナさんが私に手を振って帰ることを伝えて、安西さんの運転で走り去って行きました。
花井さんの顔には少し緊張が残っているように見えます。
ただ、喧嘩をしていたという雰囲気ではありません。
私と目が合うと、笑顔を見せてくれました。
「おかえりなさい、花井さん。何を話していたんですか?」
「ちょっと女性同士の話をしていました。だから、内容は内緒です」
「……そうですか」
「気になりますか?」
「うっ、はい」
「ふふ、ダメですよ。女の秘密です」
花井さんの答えに、私は少しの不安を感じます。
ユナさんは花井さんに何を言ったのでしょうか?
「分かりました。これ以上は聞きません。ですが、何かあったらいつでも話してくださいね」
「はい、分かりました。ふふ、大丈夫ですよ」
悪戯っ子のように笑顔を向ける花井さんは、どこかいつもの優しくてフワフワとした雰囲気とは違って、妖艶な雰囲気を出しておられます。
その後の私たちは再び公園を歩きながら話を続けました。
ですが、いつものようにただ癒される雰囲気ではなく、花井さんは心ここに在らずといった様子で、呆然としている時間が長かったです。
花井さんの様子に、どこか後ろめたさを感じる自分がいるので、深く問いかけることができませんでした。
彼女の笑顔を見るたびに、心の中でユナさんとの関係に対する罪悪感が膨らんでいくのです。
ユナさんが花井さんと話をしている間、私は心の中で色々と考えを巡らせていました。
ユナさんがどう思うのか? 花井さんに対して何を言っているのか? 花井さんが私にどういう感情を持ったのか? 女性の気持ちが全く分かりません。
女子高生に手を出そうとしている変態だと思ったのではないでしょうか? いや、大きくは間違っていないので否定もできません。
女性同士の話の内容が、私に関係する話だと思うだけで、モヤモヤとした気持ちがします。
「今日もありがとうございました」
花井さんと過ごす時間が終わり、別れの時が来ました。
寂しいような気がしますが、何も言われなかったことで、胸の中に不安だけが積もっております。
「ねぇ、鈴木さん」
「はい?」
「私たちは友達ですよね?」
「ええ、そうですね」
「では、友達同士として、もっと親しくなるために名前呼びをしませんか?」
「名前呼びですか?」
「はい! 私はハジメさんと呼びます。ですから、私のことをアンジュと呼んでください」
花井さんの提案は、さらに親しくなろうというものでした。
ユナさんと話をして、私を嫌いになったという雰囲気はありません。
安堵しました。
名前呼びで、花井さんが友人としていてくれるなら、今までよりも親しくなれた気がします。
「えっと、よろしいのですか?」
「はい! 友達ですから」
「それでは、アンジュさん」
「はい! ハジメさん。これからもよろしくお願いします」
「はっ、はい!」
名前を呼ぶだけなのに物凄く緊張しました。
ですが、私が名前を呼ぶと、アンジュさんは嬉しそうに笑ってくれました。
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