第37話
リムジンの中に入ったのは初めてです。
物凄く広くて驚いてしまう。
向かい合うように白鳥結奈さんが座っていました。
彼女の落ち着いた雰囲気と美しい姿に圧倒されながらも、私は緊張を抑えながら席に着きました。
「花井杏樹さん、お時間をいただきありがとうございます」
「いえ、大丈夫です」
「それでは単刀直入にお話させていただきます」
彼女の声は穏やかでしたが、何か重みを感じさせる何かがありました。
「はい、なんでしょうか?」
私の声は少し震えていたと思います。
きっと浮気現場を見られて、殺されるのではないかと思ったからだと思います。
恋心を抱いてはいけないと自覚しながらも、止められなかった背中に冷たい汗が流れました。
「まず、お礼を言わせてください。オジ様、鈴木一さんにとって花井さんがどれだけ大切な存在であるか、伝わってきました」
「えっ?!」
意外にも、お礼を言われて私は唖然としてしまいました。
「私が大切な存在ですか?」
「はい、オジ様はニュースで起きたような出来事が本当に行われて、心を痛めておられます。そんな中で、あなたには会いたいと思っていたのでしょう」
白鳥さんの言葉に、胸の奥が熱くなって嬉しいと感じてしまう。
「ですから、オジ様にとって大切な友人であることに感謝しています」
友人という言葉に、一気に気持ちが冷たくなっていくのを感じました。
この胸の熱は叶わない思いなんだ。
「ありがとうございます。でも、どうして私とお話をしたいと思ったんですか?」
冷静になることができた私は質問することができました。
白鳥さんは少し微笑みながら、私の目をじっと見つめます。
「花井さん、私はオジ様のことが大好きです。彼のことを夫として守りたい。幸せにしたいと心から思っています」
その言葉に、私は心が揺れ動きました。
彼女の真剣な気持ちが伝わってきます。
「私も…鈴木さんのことが大切です。彼が幸せになることを願っています」
そう言いながらも、心の中では彼への恋心が強くなるのを感じていました。
「ありがとうございます、花井さん。私はあなたとオジ様がこれからも良い友人であり続けることを願っています。そして、私は彼を支えるために最善を尽くします」
白鳥さんの言葉に、私は少し安心しました。
彼女の思いやりと決意が伝わってきて、鈴木さんが幸せになるための一歩を踏み出す覚悟ができた気がします。
「わかりました。私も鈴木さんの力になれるよう、友人としてサポートします」
白鳥さんは微笑み、私の手を優しく握りました。
「ありがとうございます、花井さん。私たち一緒に彼を支えていきましょう」
「はい!?」
「そうそう、オジ様はまだDTです。私が奪うまでは待っていただけると嬉しいです」
「えっ?!」
「何か? 別に私はオジ様が私以外の女性と結ばれても、それを咎めるつもりはありませんよ。それがオジ様の望みだと思えば、全てを許せるのです」
正妻として、白鳥結奈さんは絶対の自信を持っておられるようでした。
私の狭量な心とは違って、鈴木さんを縛ることなく、心からの幸せを願っている。
その心でも敗北したように感じました。
ただ、内心では喜んでいる自分もいました。
白鳥さんから、鈴木さんと付き合う許可を得られたような気がしたからです。
もしも、鈴木さんが私を求めてくれるなら……。
「おかえりなさい、花井さん。何を話していたんですか?」
「ちょっと女性同士の話をしていました」
私はそう答えながら、鈴木さんの優しい笑顔に心が温かくなりました。
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