第36話

 たくさん泣いて、お母さんに話を聞いてもらって、私の気持ちは少しだけ軽くなった。


 次の日、バイトを始める準備をしていると、鈴木さんからメッセージが届いていた。


「花井さん、昨日は本当にありがとうございます。また会いたいです」


 その言葉に、私は心が温かくなっていく。

 鈴木さんが私に会いたいと言ってくれることが、凄く嬉しい。

 

 男性から女性に会いたいって言われることが少ない世の中で、私は初恋の人に会いたいと言われている。


「私もまた会いたいです。鈴木さんの力になれるなら、いつでも呼んでくださいね」


 返信を送りながら、心の中で鈴木さんへの気持ちに蓋をする決心をします。



 そして、その日もまた、鈴木さんと会う約束をしました。彼に会えることが楽しみで、ドキドキしながら待ち合わせ場所に向かいました。


「花井さん、お待たせしました」


 鈴木さんの笑顔に、私は胸が熱くなりました。


「こんにちは、鈴木さん。今日はどこに行きましょうか?」

「花井さんは、どこか行きたい場所はありますか?」


 その言葉に、私は少し考えてから答えました。


「じゃあ、少し散歩しながら公園に行きませんか? そこでゆっくりお話しましょう」


 鈴木さんは笑顔で頷いてくれました。


「それはいいですね。行きましょう」


 公園までの道のり、背の高い鈴木さんの後ろに続いて歩くと、胸がドキドキします。

 彼と過ごす時間が、本当に幸せで、大切なものだと感じました。


 だけど、その幸せな時間が終わりを迎えました。


 高級なリムジンが止まったのです。


「オジ様!」


 そして、リムジンから降りてきた女性は、私よりも高身長でしたが、スレンダーで美の象徴のような美しい女性でした。


 高校生の学生服を着ているから年下だと思います。

 私よりも全てが完璧で、この人が鈴木さんが言っていた女性なんだと思った。


 敗北……。


 何一つ勝てる気がしない。


「ユナさん、どうしたの?」


 名前で呼んでいるんですね。


 私とはずっと名字で呼び合う仲なのに、友達なのに。


「今日は休校になりましたので、家に帰ろうとしていたらオジ様の姿が見えたのです。そちらの方は?」

「ああ、こちらは花井杏樹さん。色々と相談にのってもらっているんだ。私の友人だよ。花井さん。こちらは白鳥結奈さんって言って、前の事件で世話になって、それから世話になりっぱなしなんだ」


 オジ様と、ユナさん、親しそうに呼び合う二人に私は絶望と、心が締め付けられる。


「……そうなんですね。初めまして花井杏樹です。えっと、△✖️大学に通ってます」

「初めまして、〇〇学園三年の白鳥結奈です」


 超お嬢様学校だよ!!!


 あまり学校に興味のない私でも知っているお嬢様学校の名前が出てきて、私は唖然としてしまう。


「お二人はどこかに行かれるのですか?」

「うん。花井さんには気分転換に付き合ってもらっているんだよ」

「そうですか。オジ様、少し花井さんとお話をしてもいいですか?」

「えっ? 花井さんと?」


 鈴木さんが私の顔を見ました。 

 きっとクギを刺されるのだろう。


「えっ?! あっはい! いいですよ」

「ありがとうございます。それではオジ様、申し訳ありませんが花井さんをお借りします」


 私は白鳥さんに釣られてリムジンの中へと入った。


 鈴木さんは、手持ち無沙汰になったようで、公園に戻って行く後ろ姿を見た。

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