第34話
・side花井杏樹
カフェを出てから、鈴木さんと一緒に歩く時間は本当に楽しかった。
彼が少しずつ元気を取り戻している様子が嬉しくて、私もつい笑顔になってしまう。
「今日は楽しかったです、鈴木さん。またこうしてお話できるといいですね」
そう言うと、彼は優しく微笑んでくれた。
「こちらこそ、ありがとうございます。花井さんと話していると本当に癒されました」
「えっ? 癒された?」
「はい!」
その言葉に、私は心から喜びを感じていた。
鈴木さんが元気でいられるように、もっと力になりたい。
そう思いながら、彼と別れた。
翌日、私が仕事に戻ると、同僚たちが鈴木さんの話をしていた。
「最近、前に来ていたお客さんがテレビによく出てるね」
噂好きのオバチャンが話を振ってきて、いつもは興味がないけれど、鈴木さんにもニュースを見てますかと聞かれたこともあって、耳を傾けた。
「前に来ていた人ですか?」
「そうそう、花井ちゃんが相手してた三十歳オーバーの男の人だよ。ほら」
噂好きのオバチャンの話に、私は少し驚きます。
鈴木さんがテレビに出ていたとは知りませんでした。
噂好きのオバチャンの話を聞いて、私は鈴木さんがどれだけ大変な思いをしていたのかを改めて知りました。
そして、今は別の場所に引っ越しをするほど大変だったのです。
私の前で笑ってくれている間も心を痛めていたのかもしれません。
そして、癒されたと言ってくれたことが、どれだけ貴重なことなのかやっと理解できました。
「私、ダメだな。自分のことが嬉しいって思っちゃった」
その日の仕事が終わった後、私は鈴木さんにメッセージを送ることにした。
「この間はありがとうございました。またお話できる日を楽しみにしています。お体に気をつけてくださいね」
すぐに返事が返ってきた。
「こちらこそ、ありがとう。また会える日を楽しみにしています」
その返事を見て、私は心から安心しました。
鈴木さんが元気でいてくれることが、私にとって何よりも大切なことだと思った。
私は再び鈴木さんと会うまでに、彼の力になりたいと思いました。
「だけど、私に何ができるのかな?」
私はただの女子大生で、家もそれほど裕福ではない。
お母さんと二人で、細々と暮らしているだけで、むしろ、生活が困窮しているような状態だ。
鈴木さんを助けてあげたくても、その方法を私は知らない。
「えっ?」
鈴木さんから、また会いたいとメッセージが届いて、私は舞い上がってしまう。
♢
約束した当日、私は少し早めに待ち合わせ場所に着いた。
鈴木さんが来るのを待ちながら、彼とどんな話をしようか考えていた。
「花井さん、お待たせしました」
鈴木さんが現れ、その笑顔に私は胸が熱くなってしまう。
「こんにちは、鈴木さん。今日はどこに行きましょうか?」
「今日は花井さんにお任せします。どこか行きたい場所があれば」
その言葉に、私は少し考えてから答えた。
「じゃあ、少し散歩しながら公園に行きませんか? そこでゆっくりお話しましょう」
鈴木さんは笑顔で頷いてくれた。
「それはいいですね。行きましょう」
公園までの道のり、背の高い鈴木さんの後ろに続いて歩くだけど、胸がドキドキするのです。
久しぶりにあったからなのか、なんだか恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「花井さん、会っていただきありがとうございます」
「なっ、何を言っているんですか?! 私も会いたかったです!」
「はは、こんな三十歳オーバーなおじさんよりも、若い男性が良いでしょう」
「そんなことありません!」
「えっ?」
つい興奮して立ち上がってしまう。
「こうして話すことで、すごく元気になれます! 私は鈴木さんといると楽しいです!」
「はは、そう言ってもらえると嬉しいです」
私はこれまで男性に興味を持つことが本当にありませんでした。
それは自分なんてっていう気持ちと、家が裕福ではなかったからです。
自分もバイトをしなくては学校にも行けない。
大学に行っても将来は、スーパーか花屋さんに就職しようと思っていた。
商社に勤めても、私は誰かと争って仕事ができるような人間じゃないからです。
「私も鈴木さんと話せて嬉しいです。これからも、もっとお話しましょう!」
「ありがとうございます。う〜ん、そこまで言ってもらえて嬉しいです。あの、相談してもいいですか?」
「もちろんです! なんですか?」
「実は、女性から好意を寄せられておりまして」
「えっ!」
「私は自分に自信がなくて、どうすれば良いのか戸惑ってしまうんです」
鈴木さんが相談してくれたことはとても嬉しくて、だけど、相談内容が恋愛相談で、私の胸はズキっと痛みが走りました。
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