第30話

 ユナさんにGPSが付けられ、安西さんと私が確認できるようになりました。


 ユナさんは普段通りに学校に言って過ごしている中、危険な状態であればアラームが鳴るようになっています。


 私は会社を休んで、佐藤君が誘拐を実行するかもしれない期間、ユナさんを見守ることになりました。


 ユナさんが用意してくれたマンションの一階にスーパーとコンビニも入っていて、食事はそこで購入することができます。


 私は自炊をしながらユナさんを見守っています。

 

 ですが、思っていたよりも早く佐藤大輝君が動きました。

 放課後になって、安西さんがユナさんを迎えに行くと、ユナさんが出てきません。


 GPSを確認すれば、学校の中で止まっています。


 安西さんは、佐藤大輝が学校を去っていくのを確認して、裏口から別動隊を向かわせて、誘拐犯を捕らえたそうです。


「実行内容は聞き出しました。オジ様、ここから勝負です」


 ユナさんから連絡をもらって、私も部屋を出ました」


 実行犯に送られた、ユナさんを攫う計画の詳細が記されたメールが発見され、全てが明るみに出ます。


 これだけでも十分に計画者として、捕まえることができますが、ユナさんはこれで終わらせるつもりはないようです。


「オジ様、盗聴器や、仕掛けは全て整いました。何かあった際には守ってくださいますよね?」

「必ず!」


 ユナさんと佐藤大輝が対面して、危険になれば白鳥グループの警備部が飛び込む手筈になっている。


「ありがとうございます。行って参ります」


 不安で胸が締め付けられていくのを感じる。

 いつの間にか、ユナさんのことを大切に思っている自分がいたのだ。



 誘拐されて、捕まるはずだった部屋にユナさんが椅子に手錠で繋がれている。


「鈴木さん、始まります。佐藤が来ました」


 私の横で、安西さんも手に汗をかいておられます。

 彼女もユナさんのことを心配しているのでしょう。


「はい!」


 胸がドキドキして張り裂けそうです。

 ユナさんの無事を祈る気持ちと、やっぱり止めればよかったのではないかという葛藤が今もあります。


「鈴木さん、今からが本番です!」


 部屋の中には、ユナさんと佐藤大輝が対峙する。

 大輝は結奈を脅迫し、怒鳴りつけていた。


「お前は俺のものだ! 俺に従え!」


 ユナさんは冷静に彼を見つめ、静かに言った。


「佐藤大輝、私はあなたのものじゃない。誰のものでもない。私は私自身で生きているの」


 その言葉に佐藤大輝は苛立ちを隠せず、拳を振り上げた。


 私は我慢ができなくて、仕掛けられていたモニターへとアクセスする。


「佐藤大輝、君の行動は全て見えています」

「はっ? どういうことだ?」

「君が結奈を攫った瞬間から、我々は君の行動を追跡していました。君の計画は全て筒抜けだったんですよ」


 警察に連絡は入れてある。


 逆上した佐藤大輝がユナさんに暴力を振るおうとするので、私は声をかけ続けることにした。


「佐藤大輝、もうこれ以上罪を重ねるのはやめましょう」

「くそっ...! 僕をバカにするなよ!」


 佐藤大輝がユナさんに掴みかかっていきます。


 私はすぐに現場に向かおうと立ち上がりましたが、モニターの向こうで、ユナさんのスカートがヒラリと舞って、佐藤大輝の側頭部を蹴り上げました。


「ガハッ!」


 地面に倒れる佐藤大輝の元へ、数人の警察官が突入していきます。


「動くな! 佐藤大輝、君を逮捕する」


 佐藤大輝は絶望的な表情を浮かべ、その場に崩れ落ちた。


 モニターを見つめながら唖然とする私に、安西さんが一言教えてくれました。


「お嬢様は武術の達人です。あの程度の素人男なら、拳銃でも持っていない限りは問題ありません」


 安全な誘拐の中には、自衛ができることも含まれていたようです。

 私は心から安堵して、椅子に座り込んでしまいました。


 しばらく現場の状況をモニター越しに見ていると、ユナさんが警備部と共に車にやってきました。


 警察の事情聴取もあるので、この後は警察署に行かれるそうですが、どうやら怪我もないようなので、安心しました。


 ですが、私はユナさんの姿を見た瞬間……。


「オジ様!」


 彼女を抱きしめていました。


「私のために危険な目に合わせてしまい、申し訳ありません」


 私の態度は情けなかったと思います。

 ですが、こんなドラマのような事件を目の前で行われると思わなくて、気持ちが追いつきませんでした。

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