第29話

 ・side鈴木一


 私はユナさんと青羽さんから言われるままに、メディアで発表する、彼に対して寛大な処置をお願いするようなコメントを出しました。


 協力はそれだけで、メディアに対して顔出しをするようなことはありません。


「えっ! ユナさんを誘拐する計画を練っている?」


 私がコメントを出して、佐藤大輝君が謝罪して終わりだと思っていました。


 ですが、驚きの展開に唖然としてしまいます。

 佐藤大輝君は明らかに自ら破滅に向かっていることがわかりました。


 今回の騒動が起きてから、彼の部屋には母親のご協力で、ネットに追跡装置を設置していたようです。


 彼がおとなしく身を潜め、私に対して謝罪をするならば、私の意向に応じてそれ以上に彼を懲らしめることはなく、罪を許すことにしました。


 ですが、彼が危険な思想を示したならば、その限りではないと、二人と約束しました。


「はい。佐藤大輝は闇サイトにアクセスして、私を誘拐することを依頼しました。依頼料は二億。どうやら私を手に入れたなら一発逆転ができると思って、大金を投じたようですね」


 高校生だからこそなのか、彼が謝ってくれるだけで許すはずだったのに、とんでもないことになってしまいました。


「どうするんですか?」

「もちろん、警察やMGIにも協力を要請はしますが、彼らは国に勤める機関であり、事件が起きてからしか行動はできません」

「それはつまり?」

「私も、未然に防いだとしても、彼がそんなことをするつもりはなかったと言われてしまえば、終わりです。ですから、誘拐が起きるなら安全に誘拐をされようと思います」

「安全に誘拐???」


 ユナさんが言っている意味がわからなくて、首を傾げてしまいました。


 ですが、ユナさんは自信満々に頷いておられます。


「オジ様。私が囮になって彼をおびき出すことで、彼の計画を明らかにします」

「君が危険な目に遭うことになるかもしれないじゃないですか?!?。それはダメです!」


 私が否定すると、ユナさんは驚いた顔をしましたが、すぐに嬉しそうに微笑みました。その瞳には強い意志が宿っていて、こちらが圧倒されるような気がします。


「大丈夫です。私を信じてください、オジ様」

「信じるとかそういう問題ではなく、誘拐ですよ!」

「わかっています。ですが、彼のような危険な思想を持った人間をこのまま放置していては害悪だと思いませんか?」

「それは極論で!」


 ユナさんがいうことも理解できます。


「オジ様が、彼を信じて許そうとしたことは私も認めます。ですが、彼はオジ様の行為を無碍にしたのです。多くのメディアでオジ様のコメント流して、責めないように世間に訴えました。ですが、彼の答えは私の誘拐です」

「……それは」

「もうこれ以上彼に被害を広げさせるわけにはいきません」


 ユナさん決意を感じ、私は言葉を詰まらせることしかできませんでした。


「安全な誘拐の詳細を教えてください」

「ありがとうございます」


 彼女は私が否定をしても実行するバイタリティーを持ち合わせていることでしょう。ならば、少しでも協力して、彼女の安全を確保したいと思いました。


 それに、佐藤大輝君が実際に誘拐を思い止まって、実行しないことを心から願っているのも事実です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る