エピソード1 白鳥結奈

第15話

・side鈴木一


 満員電車といっても男性専用車両に乗るので快適だと思っていた日々が、リムジンに乗って出社する日々にかわり、歩くという動作がなくなって快適さの上限突破をしています。


 送り迎えをしてくれる白鳥結奈さんとの会話も、最近は少しずつ慣れてきて楽しみの一つになってきました。


「学校は楽しいですか?」


 娘と会話するお父さんの様な内容ですが、何を質問すれば良いのかわからないのです。


「学校ですか? そうですね。楽しいと思いますよ。オジ様は学生時代はどうだったんですか? 興味があります」


 ユナさんから逆に質問をされて、学生時代を思い出します。


 ですが、鈴木一の記憶を辿れば、基本的にコミュケーションを取ることが苦手で、特に女性とは絶対に話をしないという態度をとっていました。


 自分の方は、記憶を探そうとしても思い出せません。


「そうですね。あまり良い思い出がありませんね」

「それは残念ですね。もしよかったら、今度一緒に学校に来ませんか?」

「えっ! 私が学校に行くんですか?」

「はい! 学校見学は自由なんです。オジ様は、私がどんなところで勉強しているのか見たくないですか?」


 う〜ん、リムジンの中で話をすることはあっても、他のところでユナさんを見ることがないので興味はありますね。


「興味あります」

「ふふ、嬉しいです。それでは今度の土曜日、午後に」

「わかりました。空けておきます」

「はい! 楽しみです。オジ様と学校デート」


 学校デートと言われて、そんな言葉があるのかと思いましたが、なんだか背徳的な響きなのは、私だけでしょうか?



 土曜日になって、リムジンが豪華な門構えの学校に到着すると、その壮大さに圧倒されてしまいます。


 ユナさんに誘われてやってきた超お金持ち学校の校内はただただ圧倒されるほどに広くて設備が充実しています。


「ここが私たちの教室です」


 案内してもらって教室に入ると、誰もいない教室の真ん中で、ユナさんが座ってこちらに微笑んでくれます。


「こんにちは、鈴木君」

「君!!!」


 そういって上目遣いに私を見るユナさんはあざとい系女子ですね。


「ふふ、同級生ごっこです」


 本物女子高生と同級生ごっこはかなり恥ずかしいです。


「ほら、オジ様、ちゃんとやってください」

「うっ、こんにちは、白鳥さん」

「そこはユナって呼び捨てに」

「こんにちは、ユナ」

「うん!」


 納得してもらうために呼び捨てにしましたが、顔が熱い。


 これはかなりの羞恥プレイです。


「それじゃゆっくりと学校見学デートしましょ」


 ユナさんは上機嫌で学校を案内してくれます。


 学校という施設に通っていたはずなのに、ほとんど使うことがなかったことを実感しますね。


 パソコンルーム。

 図書館。

 実験室に体育館。

 室内プールなど、どれも豪華で最新の設備が整っていました。


「この学校、本当にすごいですね。こんなに素晴らしい環境で勉強できるなんて、ユナさんは幸せですね」


 ついつい感嘆の声を漏れてしまいます。


「ええ、確かに恵まれています。でも、私はこの環境に見合った努力をしなければならないと思っています」

「ユナさんは素晴らしい考え方を持っているんですね。あなたならきっと大丈夫ですよ」


 私のことも最初はすぐに飽きるだろうと思っていましたが、こうやって学園デートをしたり、楽しく話をしてくれるのは、正直楽しく感じるようになっています。

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