第13話
・Side 鈴木一
ユナさんから逃げるようにオフィスに向かえば、青羽さんがこちらを見ていた。
「おはようございます。青羽さん」
笑顔で挨拶をしますが、青羽美玲さんはいつものクールな表情でこちらを見ました。
「おはようございます。鈴木さん」
彼女は仕事に対して非常に真面目で、周囲からの信頼も厚い方です。
そんな彼女に対して、なぜか私は少し苦手意識を持っています。
それは彼女が新入社員としてオフィスに入ってきたときからで、私が彼女の指導役を任されたことがありました。
男性が女性に教えるなんて珍しいことですが、当時は人手が少なかったこともあり、雑用を指導する機会があったのです。
初対面の印象は、冷静で知的、そしてどこか冷たい雰囲気を漂わせている人でした。
「青羽さん、よろしくお願いします。わからないことがあれば何でも聞いてください」
私が言うと、彼女は控えめに頭を下げました。
「ありがとうございます、鈴木さん。よろしくお願いします」
最初の数日は、彼女に基本的な業務の流れや雑用作業を教えることに集中しました。
私はできることがそれほど多くないのですが、驚いたことに、青羽さんはすぐに私を超えるスピードで仕事を覚えてしまいました。
しかも、その正確さと効率の良さに感心させられてしまいます。
「鈴木さん、これでよろしいでしょうか?」
彼女が資料を提出してくるたびに、その完成度の高さに驚かされた。
「完璧です。青羽さん、本当に優秀ですね」
「ありがとうございます」
彼女は淡々と答えるだけでした。
その無表情のままの返答に、僕は少し寂しさを感じますが、彼女からすれば三十歳オーバーの男に褒められても嬉しくないのでしょう。
すぐに彼女は戦力として、私の元を離れました。
♢
ある日の昼休み、私は近くのカフェでランチを取ることにしました。
仕事の合間に、少しでもリラックスできる場所を求めて、食堂以外の場所でランチをとるようにしています。
本日のカフェはレトロカフェとして最近流行り出していて、静かな雰囲気を楽しむのが好きです。
カフェに入り、窓際の席に座ってナポリタンとコーヒーを注文しました。
ふと外を見ていると、向かいのレストランに青羽さんがいました。
「あれ、青羽さんが僕を見ている?」
視線を感じたように思いましたが、どうやら気のせいのようです。
ランチを終えてオフィスに戻ると、青羽さんがいつも通りのクールな表情でデスクに向かっていました。
やっぱりランチを取っていただけなんですね。
席に座ると彼女の視線が一瞬だけ僕に向けられた気がしました。
ユナさんと出会ってから、他者からの視線が気になったのかもしれませんね。
「青羽さん、お仕事お疲れ様です」
定時になったので、席を立って青羽さんに挨拶をします。
「鈴木さん。今日もお疲れ様でした」
彼女は無表情のまま答えてくれます。
ただ、彼女の表情は私を睨んでいるように感じます。
なんでこんなに睨まれているんだろう?
仕事を終えてオフィスを出るときも、青羽さんの視線が背中に突き刺さるように感じます。
彼女が何を考えているのか分からないまま、ユナさんの車に乗り込みました。
「ふぅ、青羽さん、何か僕に不満でもあるのかな…」
「あら? オジ様は悩み中ですか?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと職場の不安を」
「オジ様がお仕事場がお嫌でしたら、私が養って差し上げましょうか?」
嬉しい申し出だがそれに飛びついて、若い彼女が飽きて捨てられた時が惨めだ。
「ありがとうございます。考えておきます」
「つれないですわ」
頬を膨らませて可愛い顔を見せるユナさんに少し癒された。
自宅でもクゥが出迎えてくれたおかげで、少し気持ちが和らいだが、青羽さんのことが頭から離れなかった。
ベッドに横たわりながら、私は青羽さんの冷たい視線を思い出していた。
彼女の表情が変わらないせいで、彼女が僕をどう思っているのか全くわからない。
「しばらくはもう少し彼女と話をしてみよう」
決意しながら、僕は眠りについた。
青羽さんの冷たい視線の真意を知るために。
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