第12話

 ・side青羽美玲


 本日も鈴木一さんは、白鳥結奈さんがリムジンで出社。


「ふぅ、平日はいつもね。休日もあまり出かけないようだけど、スーパーの花井杏樹さんと仲良く話していた。やはり三十歳を超えていても、男性は女性を引き寄せるのね」


 街中を歩いていると、年老いた女性たちは、密かに鈴木さんの姿を見るのを楽しみにしている。


 若く、OLとして働いている女性たちからすれば、蔑む対象かもしれないが、余裕の出来た女性たちからすれば、鈴木さんの見た目が雰囲気は他の男性と違って癒しになっている。


 ……私は報告書を書き終えて、パソコンを閉じた。


 私は表向きには普通のOLとして働いているが、実は国からのエージェントとして、鈴木一さんの監視と護衛を任されている。


 鈴木さんだけなく三十歳を超えた男性にも最低限のサポーターが着くことが決まっている。


 それは犯罪に走る女性が中には出てくることがあるからだ。


 ただ、鈴木さんの監視を言い渡されて、見守るようになって一年が経つ。


 この国では、独身男性は三十歳を超えると仕事に就かなくてはいけない。

 だが、これまで優遇処置を受けて、我儘な王様のように振る舞い。

 肥え太った豚のように家畜されてきたために、勉強の真面目には出来なくなった男性が普通の仕事ができるはずがない。


 パソコンなどはインターネットを操作するのに使いはしても、仕事は別なのだ。

 それを鈴木さんは真面目で勤勉な仕事っぷりで、三十歳を超えてから情報処理の仕事についてしっかりとデスクワークをしている。

 

 真面目で誠実な男性は、同じオフィスで働く人たちにも好感で、むしろ職場に華が添えられているようで、鈴木さんにいいところを見せようとやる気が溢れている。


 ある日の昼休み、私はオフィスの窓から鈴木さんがランチに出かける姿を見つめていた。彼の動向を監視するのが私の仕事だが、心の中では彼の無事と幸せを願っている。


「鈴木さん、今日はどこに行くのかしら?」


 自然に足が鈴木さんの後を追うように外へ向かう。


 鈴木さんが向かったのは、近くの小さなカフェだった。


 昔ながらの古いカフェで、店内に入るとバレてしまう。

 窓際に座ってくれたから、遠くからその様子を見守りつつ、彼の安全を確認する。

 

 鈴木さんは甘い物と猫が好きだ。


「鈴木一、カフェでランチ中。異常なし」


 後で報告書にまとめるためにボイスレコーダーに保存していく。


 じっと鈴木さんを見つめる時間、いつの間にかそれが仕事だと思いながら、私は心の中で幸福を感じ始めている。


 午後の休憩時間、鈴木さんがオフィスに戻る姿を再び確認して、私は先回りしてオフィスに戻る。


 彼の一挙一動を見逃さないように気を配るが、オフィスに入ると優しい笑顔を同僚に向けている。


 鈴木さんは、知らないが一部の過激派以外の女性は、鈴木さんの物腰と優しさにファンクラブを作っている。


「青羽さん、お仕事お疲れ様です」


 そう言って私にも声をかけて、鈴木さんが笑顔を向けてくる。


「ありがとうございます、鈴木さん。今日もお忙しそうですね」


 彼の一言一言が、私にとっては宝物のように感じられる。

 彼を守るためにこの仕事をしているが、同時に彼のそばにいられることが私にとっての喜びだった。


 オフィスにいるものはそれを理解しているので、私を通してしか鈴木さんと話をしない。


 夜が更け、仕事を終えた鈴木さんがオフィスを出る頃。


 リムジンが止まって白鳥結奈と帰宅。

 

 家に帰って電気が消えるまで私は鈴木さんの監視を続け、私も眠りに着く。


「おやすみなさい、鈴木さん」


 彼の部屋が見えるマンションを借りて365日、彼のために私は存在する。


 鈴木さんの安全を守ることが私の任務だが、それ以上に彼の幸せを願う気持ちが強くなっている。


 彼に対する恋心を抱えながら、私は今日も彼の監視を続けていく。

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