第8話

・side鈴木一


 週末がやってきた。


 平日は、白鳥さんの送り迎えがあったので、スーパーに下ろして欲しいと言えなかった。


 だから、なんとか買い置きしていた物で夕食を済ませていた。


 一週間の買い物をするために、週末を使ってスーパーに行く。


 お嬢様である白鳥結奈さんは綺麗なので、見ているドキドキしてしまう。

 テントを張らないように神経を集中させなければいけないので、かなりの精神的疲労が溜まってしまう。


 だからこそ、普段とは違う格好でスーパーを訪れた。


 ジーパンとシンプルなTシャツ姿で、カジュアルなスタイルだ。


 しかも、貞操帯を外して解放状態です。


 楽になりたい! だらけたい! もうスーツも嫌だ!


 白鳥さんの前でカッコつけたオジ様を演じるのも疲れた。


 今日はカジュアルな服装で買い物リストに基づいて、お菓子とか余分な物まで食料品をカゴに詰めていく。

 

 ストレスが溜まった時には爆買い最高!

 

 レジでの精算を終えてスーパーを出れば、バックヤードの近くで休憩している花井さんと出くわした。


「こんにちは、鈴木さん」


 そう言って花井さんが微笑みかけてくれる。

 女子大生であり、ほんわかと柔らかい雰囲気をした花井杏樹さんは、三十歳オーバーのおじさんにも優しい。


 座っている花井さんはスカートで、ひらひらと見えそうで見えない!


 くっ! こんなところにトラップが!


「こんにちは、花井さん。今日もお仕事お疲れ様です」

「ちょうど休憩中なんです。少しお話ししませんか?」


 花井さんと話をするのは気持ちが癒されるのでありがたい。しかし、貞操帯をつけていないからバレないか不安だ。


「ええ、いいですよ」


 くっ! 優しくしてくれる女性にあらがえない!


 バックヤードの片隅に腰を下ろし、缶コーヒーを片手に軽く談笑を始めた。


「鈴木さん、最近クゥちゃんはどうですか?」

「クゥはとても元気です。最近、新しいおもちゃを買ってあげたら、大喜びで遊んでいます」

「それは良いですね。クゥちゃんが幸せそうでよかったです」


 クゥはスーパーの帰り道に出会ったので、その際に花井さんに拾うところを後押ししてもらった。


 花井さんは猫好きで、ご自身でも猫を飼われているそうなので、目を輝かせながら話してくれる。


 共通の話題があるので、猫の飼い主仲間として仲良くしてくれているのだろう。


「花井さんも猫を飼っているんですよね?」

「はい、ミミという真っ白な猫ちゃんなんですよ〜。ミミはとても甘えん坊さんで、いつも私の膝の上に乗ってくるんです」


 顔に乗ってくるクゥのことを思い出して、どこの猫ちゃんも甘えん坊さんなんだ。


「それは素敵ですね。クゥも甘えん坊で、夜には必ず布団の中に入ってきます」


 買い物を済ませて、花井さんと猫の話題で盛り上がりると、時間を忘れてしまう。


 ただ、生足をブラブラされておられるので、先ほどから精神統一しなければヤバいことに。

 

 猫について、私よりも色々と詳しい花井さんに習性やお気に入りの遊び道具などを聞くのは楽しい。


 だが、集中できない!


「本当に、ペットは家庭に癒しと楽しさをもたらしてくれますよね〜」


 花井さんが幸せそうな顔をするので、こちらまで幸せを分けてもらっている気分になってくる。


 貞操逆転世界では、珍しい肉食系ではない、ほんわか系女子の花井さんに嫌われたくない。


「はい、クゥのおかげで毎日が楽しいです」


 休憩時間が終わりに近づくと、花井さんは名残惜しそうに「また猫の話をしましょう」と言って去っていった。


「もちろんです。またお話しできるのを楽しみにしています」


 俺は耐え抜いたのだ!


 白鳥さんは、美少女で圧倒的な美しさをもっている。


 花井さんは、柔らかで癒しと、無自覚な誘惑が襲ってくる。


 今後は気をつけよう。

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