第5話

 お金持ちのお嬢様である白鳥結奈さんと知り合いになってしまった!


「そ、それは驚いたよ。そんな大企業のお嬢様がどうしてこんな普通のサラリーマンに?」

「ふふ、オジ様は普通ではありませんよ」


 まぁ確かにそうだ。

 三十歳を過ぎたダメなオジサンだった。


「オジ様に関わりになりたいと思った理由は、私を助けてくださったからです。命の恩人に感謝を示すのは当然のことですわ」


 結奈さんの瞳は真剣そのもので、冗談を言っている様子は全くない。


「でも、こんな大げさなお礼は...」

「大げさなんてとんでもない。これが始まりだと言ったのを忘れましたか? これからもっとお礼をさせていただきたいのです」


 彼女の笑顔には全く悪意は感じられない。

 ただ純粋に感謝してくれているだけのように見える。


「そ、そうか。でも、私のような三十歳を越えた男性に時間を割くよりも、若くて将来性のある男性を相手にした方が良いのではないか?」

「ふふ、オジ様」


 向かいに座っていた結奈さんは、俺の隣に来て耳元で囁くように体を寄せる。


 それに反応して、テントを張りそうになるが、器具が押さえ込んでくれる。


「オジ様は、男性としての機能を失っておりませんわよね」

「なっ!」


 どうしてそれがバレた?!


「昨日、ズボンが破れて見えてしまったのです。パンツに付けられた貞操器具を」

「なっ!」

「誰にも申しません。ですが、今後もお礼をさせてくだいますよね?」


 私はもしかして、女子高生に脅されているのだろうか?


 答えを出すまで悩みならが放心している間に、リムジンはあっという間に会社のビルの前に到着した。


「到着しちゃいましたね」

「えっと、ここまで送ってくれて、ありがとう」

「どういたしまして、オジ様。仕事が終わったら、またお迎えに参ります」

「いや、それは...」

「お嬢様のご命令です」


 安西さんが厳しい表情で言い放つ。

 これ以上断ることはできないと悟った私はただ頷くしかできなかった。


「わ、わかったよ。それじゃ、また帰りに」


 リムジンを降りて会社に入ると、私を見つめている視線が増えている。


「おはようございます。鈴木さん。今日はリムジンで出社されたようですね」


 オフィスに入ると、青羽さんに声をかけられる。


「あっ、おはようございます。いや、友人の家の娘さんが送ってくれただけですよ」

「そうですか。友人にそんなお金持ちの方がいるんですね」


 青羽さんは興味なさそうな顔をしながらも、こちらを睨むような視線を向けてきた。


 真実を話すことはできない。

 

 結奈さんが、どれだけの影響力を持っているのかわからない。



 仕事が終わると、結奈さんは言った通り、再びリムジンで待っていた。


「お待たせしました、オジ様」


 人の目を少しだでも避けるために早々に車に乗り込むんだ。


 車の中では、結奈さんが嬉しそうに微笑んでいた。

 運転席の黒服女性、安西詩織さんは無言でこちらを睨んでくる。


 どうやら安西さんには、私の秘密を話していないようだ。話していれば睨んでくるよりも、排除しようとするだろう。


「どうしてこんなことを?」

「それはもちろんオジ様が私の命を助けてくれたからですわ。そして、これからもずっと恩返しをしたいのです」

「ずっと?」

「はい。お礼は一度きりではなく、ずっと続けたいのです」


 彼女の言葉には強い意志が感じられる。


 鈴木一として、これまで女性を選ぶことができなくて、三十歳を越えてしまった過去。


 だが、今の自分は養われるという選択肢に実感がない。


 だが、私としては、それを無視することもできない。


 これは養ってもらえる千載一遇のチャンスなのかもしれない。


 だが、ガツガツとして興味を失われても困ってしまう。


 彼女のことを性欲旺盛な男子高校生として考えるなら、きっと熱しやすく、冷めやすいはずだ。

 

 だから、こちらが浮かれて近づけば、一気に冷めて捨てられてしまうかもしれない。


 あまり期待してはいけないな。


「わかったよ。でも無理だけはしないでくれ」

「もちろんですわ。オジ様のために頑張ります」


 その日から、私の日常は大きく変わっていくこととなる。

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