第4話
目を覚ますと、顔の上にクゥが乗っている。
まだ一歳ぐらいのクゥは小さくて大人だと言っても、とても小さくて愛らしい。
いつも通りに朝のルーティンを終えて、スーツを着て部屋を出る準備をする。
残念ながら昨日破れたズボンは捨てなけれはならない。
それほど裕福な暮らしではないので、厳しい出費ではあるが、人命には変えられない。
「クゥ、行ってきます」
「ミャー」
朝ご飯の用意をして、クゥに見送られる。
最近は、家で出来る仕事はないかとスキルアップするためにNewTubeを見て過ごす毎日だ。
副業や、在宅ワークをすれば、クゥと一緒にいられて嫌な人間関係ともおさらばできるのに。
「さて、覚悟を決めて行ってきますか」
玄関を開けてマンションのエレベーターを降りていく。
「へっ?」
「おはようございます。お待ちしておりましたわ。オジ様」
そこには、有名な私立学校の制服を着た昨日助けた女の子が立っていた。
しかも、彼女の後ろにはリムジンが止められている。
「えっと、おはようございます」
「はい! オジ様、本日はオジ様を会社までお送りしたいと思います」
どうして家の住所を知っているのか疑問ではあるが、お金持ちだから特定するのとか簡単だったのかな?
「えっ、いや、だけど学校があるんじゃないのかい?」
「ふふふ、大丈夫ですわ」
「そうなの?」
時計を見れば、時間は7時45分。
会社まで送ってもらっていたら、絶対に間に合わないと思うけど……。
「えっと」
「鈴木様」
「うわっ!」
私が悩んでいると、黒服を着た綺麗な女性が突然現れて名前を呼ばれる。
「はっ、はい?」
「この時間がすでに無駄だと提案します」
「えっ、あっはい」
なんだか強引にリムジンに乗せられて、先ほどの黒服の女性が運転席に乗り込んでいく。
「ふふ、少し強引なお誘いになってしまって申し訳ありません」
「あっ、いや。それは構わないのだが、これが君のお礼と言うことかな?」
「そうですわね。これは手始めだと思って欲しいです」
手始め? ちょっと怖くなってしまう。
「オジ様、まずは自己紹介をさせていただいてもいいですか?」
「ああ、そうだったね。昨日はなんだか慌てていて、ちゃんと自己紹介もしていなかったね」
女子高生に指摘されるとは恥ずかしい。
本当に昨日は慌てていたんだと認識させられる。
「私は鈴木一、三十五歳。会社員をしているんだ」
「はい! 存じております」
「うん?」
「ふふ、すみません。自己紹介と言いましたが、オジ様にはお名刺をいただきましたから、知っております」
「ああ、そう言うことか」
こんなリムジンに乗せられてしまったから、びびってしまったのかもしれないな。
「私の自己紹介ですが、私は白鳥結奈と申します」
「白鳥?」
シラトリと言われて思い浮かぶお金持ちは、《スワングループ》といわれる財閥だ。
各方面で様々な企業を取り仕切る白鳥家だが、まさかそこのお嬢さんとは言わないだろう。
白鳥なんて名前は日本中を探せば、それなりにいるだろうからな。
「ご想像通り、スワングループの会長は私の祖母に当たります。母は化粧品部門を統括する社長をしております」
「!!!」
財閥と呼ばれるほどにとんでもない大金持ちのお嬢様だった。
その後は、運転手さんの安西詩織さんも紹介されて、俺は次元の違う大金持ちのお嬢様を助けてしまったようだ。
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