第6話 “普通”を否定してきた


 子供の頃、普通はつまらないと思ってた。

 小学校から大学までの道のり、そして社会へ――。

 ほとんどの人が歩むその道は平凡で代り映えの無い、誰にでも歩めるつまらない道なのだと。



 俺の父親は会社員だった。

 俺が高校生くらいまで毎日ストレスをためて家に帰ってきてたし、そのストレスを逆なでするかのように母親が家でもストレスを与えるからよく喧嘩してた。

 時には飲み会でストレスを発散して玄関の廊下で寝ていたり、俺の成績が悪い事に怒鳴ったり時には手を出してきたこともある。

 


 そんな父親を見てあんな風にはなりたくないと思った。

 会社員になって、社会に揉まれて、ストレスをためて。

 そんな生き方、俺は絶対に嫌だ。

 子供の頃に強くそう思った。



 大学3年生の就職活動に差し掛かった時にもその考えが脳裏にこびりついていて、自分のやっている事が父親と同じ道を歩んでいるんだと強く嫌悪感を感じたのを覚えている。

 しかしながら、その時点で何か金を稼ぐ才能を発揮したわけでも、自信があったわけでもなかった。

 だから仕方がなく就職活動に励んだし、だから落ちたんだと思う。



 結局、俺は“普通”にもなれなかった。

 気づいたら平凡で、つまらない、内心では嫌悪していた父親の道にすら俺は乗れていなかった。

 やはりというべきなのか、子供の頃に染み付いた考え方や感じ方というのはなかなか変えることができない。

 今は“普通”になりたいと頭では感じつつも、心の扉に耳を当ててみるとどこかひそひそと悪口を言っているのが聞こえてくる。



 子供の頃から嫌悪していた世界に入るのが怖い。

 でも年齢やお金、友達や親という自分の心とは関係のないところで“普通”を求めて焦っている。

 “普通”と“嫌悪”“恐怖”に板挟みになって行動できない。

 みんなが易々と行動できることが俺にはできない。

 


 大学を卒業して5年が経ち、そんな自分に自信が持てなくなってしまった。

 来年は28歳。

 果たして俺は変われるのだろうか……。

 

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職歴なし27歳ってどんな感じ? @ossann27

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