第七歩 奏の勉強
昔はそれほど勉強が嫌いなわけでは無かった。
いつからだろう。勉強が嫌いになった、いやそう思ってしまうようになったのは。
午後5時を過ぎても未だ照りつけ続ける太陽は私の向かっている机だけでなく、他の机も同様に明るく照らしている。
そんな外界とは相対して室内はとても涼しい。帰りは暑いし、ずっとここで居たい。だけど母も心配するだろうから、6時半までには帰らなければならない。
今はとにかく自分の得意な暗記系科目を重点的にやる。計算問題で得点を狙えないのならば、他の物で点を稼がなければ。
……………
沈黙。
当然だが、図書館での物音といえば、筆記用具で書き込んでいる音か、本のページを
普段、休み時間にはグループで話す事が日常となっている私にとって、この空気は正直キツい。
暗記科目はこのくらいにしておこうかな。…あまりやりたくは無いけどそろそろ数学もしておかないと。
私は渋々
「はぁ……」
周りに気付かれないように小さく溜め息をつく。数字の列を見ただけでも嫌になってくる。
時間を掛けても仕方がない。適当にやって帰ろう。
最悪な心持ちのまま、私は頭を悩ませる。
中間テストはあまり良い結果とは言えなかった。だからこそ、今回のテストで取り返さないと流石に母が
ふと時間を見ると、5時20分を指している。ここまでどれだけ試行錯誤しようとも解が出ない。それに問題を解くのにも時間が掛かりすぎてしまう。
何かやり方が間違ってるんだろうな。とは思いつつも、やり方を知らない私にとっては考えるのも無駄である。
しかし、
決して嫌いになりたくて嫌っているわけではないけど、どこか自分と似ているような彼とは馬が合わないと勝手に同族嫌悪の念を抱いているだけに過ぎないのだ。
最低だな、私って。
数学ばかりしていると頭が疲れてくるので少し違う教科もやってみる。
地理の教科書とルーズリーフを取り出し、斜陽の差し込み始めた窓際の机に向き直り、沈黙の中シャーペンを動かす。
気が付くと、時計の長針は10の所を指していた。意外と集中力が続いたなと自分を褒めながら、帰り支度を始める。
少しの達成感を胸に、なるべく音を立てないように静かに席を立ち、椅子を片付ける。
赤井君のすぐ後ろを通り過ぎるも、彼はこちらに気付いていない様子だ。余程集中しているのだろう。私よりも先に図書館に来ていた辺り、物凄い時間集中出来ていたのだろうと思う。
素直に尊敬の念を抱く。きっと帰ってからも勉強をし続けるのだろう。
私なんて帰ってしまえばスマホで友達とチャットをするか、YouTubeを見るか、雑誌を見るかで一日が終わるのに。
いや、彼は彼、自分は自分だ。彼が何をしようが私には関係の無いことだ。
靴箱に行き、革靴に履き替える。昨日の雨天が嘘のように、薄い雲から顔を覗かせる太陽はまさに夏を形容するのに十分な光量と熱量を含んでいる。
もう七月か。
熱されたアスファルトを下りながら、ふとそんな事を考える。
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