真夏のうさぎとかめ
旋転星 当
第1話 真夏の競争
「かめ。暑すぎるからあの川まで勝負しようぜ。」
うさぎはそう言って少し下った先にある川を指さした。なんてったってこの日の気温は38度。今は日陰の中に2匹仲良く引きこもっているが、干からびるように暑い。水浴びをすれば少しは涼しくなるのではないかという計算だ。
「いいよ。ちょうど僕も水浴びをしたかったんだ。」
「交渉成立。勝負といこうじゃねえか!」
二人は汗だくの体をひきづるように外へ歩いた。下に向かうルートはどう頑張っても日差しがあるところを通らなければならない。しかも木陰がより多いところを選んで進むとかなり時間がかかる。そんなじわじわ体力を削るルートは今の二人にはお断りなのだ。
「スタート地点に着いたのにすでに限界なんだけど。」
そう言ってかめは甲羅の中に体をしまった。
「おい!ずるいぞ!」と甲羅を叩くと
「甲羅を通って熱が中に伝わる…。」
せっかくひらめいた方法が全く役に立たないことを悲しむ亀が顔を再び出した。
脚を長時間つかないようにひたすら左右にピョンピョン飛ぶうさぎは無理しやがってという同情の視線をかめに送った。
「じゃあとっとと始めるぞ!はじめー!」
勢いよく言い放ったあと。うさぎは我先にと川へ一直線に走った。熱い道がうさぎの行く手を阻むがおかまいなしにオアシスの川へ走っていった。
「どこかの先祖はどうせ勝てると思って手を抜いていたらしいが俺は違う!かめはきっと滑らないようにゆっくり向かっていくはずだ!それになだらかな道を行こうとすると遠回りになる!残念だったな。浅瀬でびちょびちょになった俺をみて涼む準備をしてやがれ!」
どうやらうさぎは勝負に勝ちかめに自らの体をみせて涼ませようと考えているらしい。だがそれは風鈴の音のように涼しくみえるが実際何の意味も持たないのではないだろうか。
その一方でかめはのそのそと少し斜面の急な所へい移動していた。
「うさぎめ。僕に下り坂で勝負を挑もうなんて頭が熱でやられてしまったようだな」
そういって斜面ギリギリに立った後、体を甲羅の中へしまった。すると斜面の方に体が傾き、落ちて行った。これこそがかめの作戦なのだ。多少痛い部分はあるが、これを我慢すれば勝負にも勝てるし川にボチャンと勢いよくはいって涼むことができる。
どうやらどちらも頭がやられているようだが二人には関係ない。これは真夏の競争。頭のやられ度も勝負のうちにはいるのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
勢いよく叫びながら迫ってくるかめにうさぎは驚いた。こいつ勝負の為なら身を投じてもいいってのか!?そししてうさぎはすぐに察した。
(このままではまた負けてしまう!いいのか。うさぎの誇りはまた保たれないというのか。いいやまだだ!)
うさぎはとっさのひらめきによりすぐ近くにあったうさぎ一匹分が乗れる大きな葉っぱをもぎ取り、それに飛び乗った。人間は波でサーフィンをするようにうさぎは道の凹凸でサーフィンをしだした。
「やるな。うさぎ!だけどその葉っぱじゃすぐにボロボロになってしまうんじゃないのかい?」
「君こそ!その甲羅はすごく気に入っててもう傷をつけたくなかったんだろ!」
大声でやり取りをしているからか、周りにいた動物たちもなんだなんだと現れてきた。
「今回はどっちが勝つと思う?俺はかめだ。」
「確かに下り坂の急降下はすごいと思ったけど土でサーフィンする姿がカッコイイからうさぎに勝ってほしいっす!」
賭けを始める者もいれば、声援を送る者もいる。共通していえることは全員日陰に避難して安全圏を確保している。そこまで勝負がしたかったのかはわからない。
「は!川が見えてきた!!」
「「負けてたまるかー!!!」」
勢いをさらに増しながらお互いが一歩も譲らない戦いに目が離せない。ザザザザ!と土と葉っぱが悲鳴をあげるような音とズシャ!ズシャ!と確実に傷がつく音が聞こえながら驚異のスピードで降りていく。
そして
バッチャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
ゴールと同時にものすごい高さの水しぶきが飛んだ。どれだけスピードがでたかお分かりだろうか。かめに関しては水をきるようになぜか2回目の水しぶきが飛んでいた。
ゴボゴボと泡が見える。うさぎが勢いよく行き過ぎた反動で深くに沈んでしまったのだ。
「大丈夫か!うさぎ!」
同時に着いたはずなのに見当たらないうさぎを見つけ、かめは急いでうさぎを陸へと運んだ。
「勝負に夢中でその先のことを考えていなかったよ。ありがとう。」
死にかけな表情を浮かべながらうさぎはかめに礼を言い、足を水につけた。やっとありつけた涼に感動が止まらない。2匹は疲れた体を癒していた。すると
「おい!お前たちか!」
そこには怒った鯉がいた。近くを泳いでいたら突然水しぶきが起きて子分が驚いて逃げていったらしい。
「勝負か知らねえけどもっと周りをみて勝負をしろ!」
2匹はこそこそと
「やべえ…。鯉親分じゃねえか。」
「僕たまに遠くでみるんだけど話ながいんだよなあ…」
「話聞いてんのか!」
「「ハイ…」」
とにかく耳をふさぎたくなるような話を永遠に言われうんざりしていた。ようやく説教が終わると2匹は
「今日のところは引き分けにするか?川でみていたやつはあれしかいないし。」
「そうだね。僕もあれに関わるのは勘弁だわ。」
少しの沈黙のあと
「じゃあ次は早食い競争にするか。」
「待て。それはうさぎが有利すぎる。ここは大食いにするべきだ。」
「はあ!?それこそかめが有利じゃないか!」
明日もうさぎとかめの競争は終わらない。
真夏のうさぎとかめ 旋転星 当 @sentenbosi777
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