07:FAKE ANGEL

「ありみちゃん、それって……」


「危なかったよね、さっきの自転車。あんなに急いでどこに行くつもりだったんだろ」


「ああ、危なかったよな。もう少しで大惨事になるところだった。いや、そうじゃない。それよりその頭……」


「バレちゃったね、そう、ウィッグ……カツラだったんだよ。バカみたいでしょ、あたしがあんな長いカツラを被ってたなんて」


「ありみちゃん……いや、みりあ。おまえ……」


「ホント、バカみたいだよね。ずっと髪も短くして後輩からは王子様系って言われるくらいのあたしがこんなフリルまみれのスカートを履いて、ふわふわロングのカツラまで被って……、でも、確かめたかったんだよ」


「確かめたかったって……何をだよ?」


「あんたとあたしの関係を確かめたかったの。祐一、あんたとあたしは小さな頃から腐れ縁だったでしょ、それで大学生になってもずっと一緒だった。それはずっと楽しかったけど……不安にもなったんだ」


「俺だって楽しかった。そりゃあたまには嫌になる事もあったけど、俺はおまえと幼なじみでよかったと思ってるよ」


「そりゃそう……あたしだってそうだよ。でも、思ったんだよ。こんな男同士みたいな関係を続けてていいのかなって。そう思った時には確かめずにはいられなかったんだ。カツラを被っておめかしして変装して、あたしじゃない誰かとしてあんたと話してみたかったの」


「あの日……、道端でぶつかったのも偶然じゃなかったってのか?」


「『あらあら、すみません。よそ見してしまいましたぁ……』だったよね。自分でも寒気がするけどあたしの思う可愛い女の子を演じてみたんだ。あたしが可愛い女の子だったらあんたとの関係が変わるのか確かめたかったから」


「みりあ、おまえ、そこまでして……」


「あの日からありみとしてあんたと遊ぶのは楽しかったよ、祐一。こんな生活も悪くないって思わなくもなかったくらい。でもね、今度は逆に怖くなってきたんだ。あんたとの新しい毎日の中にはあたしが存在しなかったから」


「そうか、だから……」


「やっぱり気付いちゃった? そうなの。普段はカツラをもっと強く固定してたんだけど、最近はちょっとした事で外れるようにしてたのよ。突っ込んでくる自転車を避けたくらいで外れるくらいに。バレたかった……んだと思う。これ以上自分を偽りたくなかったから……」


「みりあ……」


「ねえ、祐一。聞かせて。あんたはあたしとどうなりたい? 腐れ縁の幼なじみ? それともふわふわ可愛い友達以上恋人未満の関係?」


「……なあ、みりあ、それを伝えるより先に俺の話を聞いてくれるか?」


「……うん、いいよ、祐一の言いたいことから聞かせて。ずっと騙しちゃってたわけだし……」


「こう言っちゃ何だけど、みりあ、俺ずっと気付いてたぞ」


「えっ」


「いや、気付くだろ。いくら何でもカツラ被って服装と化粧変えるだけで幼なじみ騙せるわけないだろ」


「えっえっ」


「あまりにも自信満々に演技するから。新しい遊びかと思ってずっと言わなかったんだよな。マジで騙せてるつもりだったのか……」


「えっえっえっ」


「大体何だよ、ありみって。そのままみりあの逆さ読みじゃねえか、アナグラムにしてももうちょっと気合い入れろよ」


「いや……、みりあのアナグラム他に思い付かなくて……」


「バカかおまえは。まあ俺もみりあのアナグラムはパッと思い浮かばないけどな。そもそもアナグラムにする必要も無いけど」


「うっ……」


「だけどみりあ、俺はそんなバカなおまえの事嫌いじゃないぞ。変装したおまえと遊ぶのも楽しかったしな」


「じゃあ……」


「ああ、みりあ、俺はおまえが好きだよ。ずっと仲の良い幼なじみでいてほしい」


「あの、祐一さん……?」


「何だいみりあ君」


「恋人関係として仲良くなるってのは無し?」


「無理っす」


「無理っすか……」


「みりあ、おまえも薄々気付いてて変装したんだろ? 俺ってやっぱり髪が長くてフリフリした感じの服着てる女の子がタイプなんだよ」


「それはまあ……、変装してて強く感じたけど……」


「だろ? こればっかりは生まれ持った感性だしさ、そういう女の子と付き合いたいんだよな」


「じゃああたしがずっと変装してあんたと……、ってのも違うよね」


「まあな。それは俺がみりあに求めることじゃないし、おまえだってそこまでして俺と付き合いたくなんてないだろ?」


「参ったなあ……、それを言われると何も返せないじゃない」


「だからさ、こんな俺だけどこれからも楽しく遊んでくれよ。可愛い彼女ができたら紹介するからさ」


「もしその彼女があたしと遊ぶなって言うようなタイプだったら?」


「それならみりあごと好きになってくれる彼女を探すさ」


「そっか……、それじゃ、その時はよろしくね、あたしの腐れ縁の祐一くん」


「ああ、これからもよろしく、大切なみりあ」

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