第19話 夫剛の死 


 イケメン俳優Aは今日も枕営業で政治家B先生の隠れ家に向かっている。


 ”ピンポン“ ”ピンポン”


「さあさあ上がりたまえ😍」


「あ~ら先生会いたかったわ。ふっふっふっふ💞ああん😘だ~い好き💖💛🩵ブチュッ💋今夜もたっぷり頑張るわ💛💕」とまあこの様に変貌してしまう。 



 芸能界にはゲイやレズと言った性的少数者の総称「LGBT」(生まれた時の性と違う性の感情を持つ人)の人たちも少なからず活躍している。それは別に芸能界だけではなく、一般社会にも同じ様に「LGBT」の人達は正体を隠して生きている。

 

 別に悪い事をしている訳ではないので隠す必要はないとは思うが、まだまだ現在の日本では認知不足で、中には白い目で見る頭の固い人も少なからずいるのが現状だ。

 

「LGBT」の人達の中には芸能界や政財界の有力者もいる。


 このような理由から芸能人の中には、芸能界や政財界の有力者の相手をしている内に、自分もゲイになってしまうパターンがあるようだ。


 最初は仕事を貰うために、致し方なく相手をさせられているのだが、いつの間にか自分もゲイになってしまう。


 だから……陸の恋人は女とは限らない。陸はひょっとして(バイセクシュアル:両性愛者)という事も考えられる。


 陸と肉体関係に有った女性たちばかりが殺害されたという事は、やはり……陸に思いを寄せる恋敵の仕業と見るのが普通だが、恋敵が女性とも限らない。これだけ才能あふれる若きイケメン漫画家にして映画監督だったら、ゲイからも目を付けられている可能性は十分に考えられる。


 

 それと陸の出生の秘密だ。

 母陽子は住職剛という夫がありながら、僧侶一輝と抜き差しならぬ関係に陥ってしまったので、あの当時は、夫剛の息子なのか?それとも……一輝の息子なのか?ハッキリしなかった。


 あの時はまだDNA鑑定が実用化されていなかったので、誰の息子なのか分からなかったが、数年後にDNA鑑定が実用化された。


 夫剛は妻陽子と僧侶一輝の密通現場を目撃して以来ず~っと息子陸が、自分の息子なのか疑心暗鬼になり不安な気持ちを抱え続けていた。こんな気持ちで自分の息子陸を愛せる訳がない。こうして……こっそり息子陸のDNA鑑定を行った。


 DNA鑑定を行った時期は陸が誕生して数年後の、DNA鑑定が実用化された1992年に早速DNA鑑定を行った。それは「歯ブラシや髪の毛でも鑑定可」と聞いたので、DNA鑑定センターに提出してやっと念願の結果が出た。


 その結果は、あれだけ心配していたが、結局剛の息子であることが証明されて剛は一安心。


 だが……剛は妻陽子の浮気現場を目撃してからというもの、陽子を愛せなくなってしまった。

 

 ★☆

  そういえば殺害された陸の彼女今井絵里ちゃんは母陽子もよく知る陸の竹馬の友だ。


 どうも……絵里の母が陽子と僧侶一輝の浮気現場を目撃したらしい。それは剛がくも膜下出血で2カ月間入院していた時に目撃されていた。


 絵里の母は埼玉出身だった。地元のお友達と久しぶりに埼玉県に出向いた時に埼玉の有名レストランで友達と待ち合わせたのだが、その時に陽子と僧侶一輝の浮気現場を目撃した。

 

 実は……絵里の母はレストランに入った時に、こんな田舎に一際目立つ20代の美男美女カップルがいたので、よくよく見ると住職の妻陽子様である事が分かった。また男性の方も……どこかで見た事があるような気がする?


「そうだ。僧侶さんだ」

 すると……2人は食事が済むとにこやかに出て行ったが、何と大胆な事に真昼間だというのに向かいのモーテルに車が入って行った。


 まさか……こんな所で知り合いに出くわしていたとは……。

 陽子はこんな田舎で知り合いや檀家さんと会う訳がないと思い時間が空くと、わざとこんな離れた埼玉で一輝との浮気を繰り返していた。


 それを絵里の母も黙っていれば良い事を、うっかり近所の住人に話してしまった。それがあっという間に安福時にまで広まってしまった。


 だから……退院して来て剛が目撃する以前に剛はその噂を耳にしていた可能性が出て来た。あの時剛が容態が悪くなったというのも、陽子と一輝の姿がお寺本堂の説教現場にはいなかったので、噂を耳にしていた住職剛は、ひょっとしたらと勘繰り、容態が悪くなったふりをして家の離れに向かったのかも知れない。


 だから……陸との色恋沙汰だけに目を向けるのはまだ早い気がする。本妻陽子は浮気をバラされ窮地に立たされた恨みは計り知れない。絵里の母の浅はかな行動で陽子は妻の座を追われそうになり息子陸も安福時を追い出され、愛人美知の息子雄大に安福時は継承された。


 ★☆


 住職剛と妻陽子が結婚して25年余りが経過した安福時は予想も出来ない状態になっていた。実は夫剛が大腸がんでこの世を去っていた。


 本来ならば長男である陸がこの安福時を引き継ぐのが当たり前なのだが、夫の強い要望で、愛人美知の息子雄大が安福時を引き継ぐこととなった。


 本妻陽子と直系の長男陸が蚊帳の外で、愛人美知の息子雄大が跡継ぎとなった事で怒り心頭の本妻陽子。


「あなた……あんまりです。この安福時の為に長年力を注いできた私と離婚したいとは酷過ぎです。ウウウッ( ノД`)シクシク…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭そして…息子陸が安福時を継承するのが筋なのに、あんな愛人美知の息子雄大に安福時を継がせるとはどういう事ですかウウウッ( ノД`)シクシク…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭許せない!わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


「ええええぇぇええええええええっ!」

 聞き捨てならない話ばかりだが、夫が亡くなったのに「あなた」とは……一体誰の事なのだろうか?



 ★☆

 実は陽子はまだ息子陸が中学生の頃に、夫剛を大腸がんで亡くしていた。

 その時に剛の弟忠司と結婚していた。


 その理由は安福時を継承する長男陸がまだ中学生で住職になれない。そんな時に夫剛の弟忠司から告白されて結婚した。


 それは大きなお寺を切り盛りして行くにはどうしても男手が必要だったからだ。今更お寺を出て陸と愛人の子HINATAを抱えてどうして生きて行けようか。

 

 それなのに何故愛人美知の息子がこの安福時を継ぐことになってしまったのか?

 

 今まで精一杯お寺の為に貢献してきたのにスッカラカンで追い出されて、本妻陽子と息子で直系の可愛い息子陸には雀の涙ほどの財産とはどういう事?


 これには頭にくるどころの騒ぎではない。


 ★☆

 実は弟忠司と妻陽子の間にはとうとう子供が授からなかった。

 確かに結婚したのが陽子41歳で忠司34歳だから子供が誕生する確率は少ない。


 そこで……愛人美知が剛が癌で余命幾ばくもないと分かった時点で、これは大変と考え遺産相続で度々安福時に顔を出すようになっていた。

 

 夫剛は43歳で入院したが、自覚症状がなかったので直ぐに退院できると軽い気持ちで入院した。まさか死ぬとは思わず遺言書は書いていなかった。大腸がんは自覚症状が現れたときには、ある程度がんが進行してしまっているため、手遅れになる事も多い。


 こうして……長男陸は中学生で、まだ住職になるには早すぎるので、当然夫で弟の忠司が住職になった。


 愛人美知は死亡保険金や多少の遺産は引き継いだが、まだ小学生の雄大を抱えてどうして生きて行けようか。


 こうして考えたのが、水商売で男を手のひらで転がす話術と、色仕掛けで男を手玉に取る事を得意とする美知に引っ掛かった忠司は、まんまとその罠に引っかかってしまった。陽子より6つも年下なので忠司の子供を産む事ことだってまだ十分にできる。


 忠司は、いくら甥っ子がいると言えど、やはり自分の子供が何としても欲しい。元々子供が授かりにくい体に加え高齢と来て、とてもじゃないが陽子では子作りは無理だ。

 

 こうして……愛人美知に軍配が上がった。


 

 だから忠司にすれば離婚する陽子には出来るだけ財産は渡したくない。こうして陽子と陸には悪条件相続が言い渡された。


 黙って居られる訳がない。弁護士を雇うことにした陽子。

 


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