第11話 謎の女沙織


 

 それでは妹HINATAはその後どうなったのか?

 実は……HINATAが女優業に本腰を入れ始めたのには訳があった。


 HINATAは大手芸能事務所「ミーティア・プロダクション」に所属している。

所属のスターたちは我こそは一歩でも先を行って、一方で自分たちを出し抜こうとする才能ある後輩スターを潰しにかかっている。


「あんなにルックスも歌唱力もダンスも最高だったら……俺たちの出番が無くなる。これは大変な事だ。あいつらの人気が出ない内に潰してしまえ!」


「チッ!あいつら出しゃばり過ぎだっつーの!」


 どう見ても敵いっこない、最近破竹の勢いで勢力を伸ばしている若手ボーイズグループに先を越されてはと、社長に食い下がり破竹の勢いのイケメングループ「スターダスト」を蹴落とすために必死で社長に食い下がっている。


「社長僕たち「セブンチーム」と「スターダスト」どっち取るのですか、もし……「スターダスト」にばかり力を注ぐのであれば僕らは辞めます。あいつらまだ入ったばかりで出しゃばり過ぎです。テレビ出演もなくして下さい。でなければ僕たちは辞めます」


 この様に自分たちを出し抜こうとする後輩を、蹴落とそうとする無能で魅力のかけらもない先輩たちが、幅を利かせているこの「ミーティア・プロダクション」から退社した。


 どこの世界も出る釘は打たれるものなのだろう。

 だけど……一般観衆は汚い裏側はどうでもいい。最高のエンターテイメントが見たいだけなのだ。


 こんな事務所に見切りをつけて退社した。

 そして……アイドルよりも女優業に本腰を入れ始めた。



 ★☆



 そういえば陸には命をかけて愛する女沙織がいる。


 それも……あれだけ異性関係にだらしない陸が、只々一途に愛する沙織がいながら、何故いろんな女と関係を持たなければいけなかったのか?


 まあ女が言い寄って来るので「据え膳食わぬは男の恥」という言葉通り、男たるもの女に恥をかかせたくないので、関係を結んでいただけの事なのか?


 ※(「据え膳」は、すっかり準備された食事の膳をいうことから) 積極的に女性のほうから持ちかけられた男が、誘惑に応じないのは男子として恥であるという意味。

 

 全く陸という男が分からない。この問題が解けないと先には進めない。

 それでは……肝心の沙織という女は、どこの誰で今何をしてどこに住んで居るのか?

 全く謎だらけの女。

 

 ★☆

 陸は親の勧めで度々結婚をしていた。


 両親の望みはただ1つ早く孫の顔が見たい。それだけなのだ。


 それでは……両親がかたくなに反対するその理由はどのようなものなのか?


 沙織はひょっとしたら子供が出来ない男でゲイという事も考えられる。それとも……兄妹同士とか?でも妹の名前はHINATAだから違う。


 道ならぬ恋に苦しむ2人。

 叶わぬ恋に身を投じる2人。

 天罰が下ろうと……危険な関係だと分かっていても……

 これだけ聞いても全く理解に苦しむ。

 

 嗚呼……そういえば陸には若い叔母がいた。

 その女性は母の妹で詩織という女性だが、陸の母より12歳年下の陸より13歳年上の女性だ。まあ確かに道ならぬ恋になるけれど……。


 母の妹詩織は確かに美しい女性だった。

 ミスコン嵐とまで言われた美人だ。そして……今尚超美人である。

 

 叔母詩織が陸の道ならぬ相手なのだろうか?

 


 それでは……2人の密会の様子をもう一度確認して見よう。


 逗子にある広々とした敷地内に琥珀色の古民家風別荘は、目の前に海が望める情緒漂う別荘だ。管理を任されている60代の夫婦はこのカップルの身を案じ心もとない。かといって……解決策など見付かろうはずもない。


 只々叶わぬ恋に身を投じる2人を見守る事しか出来ない。


「どんな事が有ろうと……絶対に離れたくない……私は例え……天罰が下ろうと……陸と離れることなど出来ない。…ゥウウッシクシク(´;ω;`)ウッ…危険な関係だという事は痛いほど分かっていても……それでも……この関係を終わらせることなんて出来ない。もっと……もっと……強く抱いて嗚呼💋💕💖……」


「俺もさ……沙織しか考えられない。愛している💕💓」


「嗚呼……どんな過ちであろうと……陸しか考えられない。もっと……もっと……強く抱いて陸……嗚呼……お願い……もっとよ💛💋ああああ」


 人目を忍んで愛し合うカップル。

 陸は結婚離婚を繰り返していたが、この沙織との関係は大学生の頃らずっと続いていた。


 陸と沙織は深い愛で結ばれていたが、両親の反対で交際すらまともに出来なかった。だが、陸は日本屈指の漫画家で長者番付にも名を連ねる超売れっ子漫画家。人目に付かないように、沙織との逢瀬の為にワザワザこの湘南の海が一望できる場所に別荘を建てた。


 この意味有り気なカップルは💑一目をはばかり隠れるように、この1分1秒も無駄に出来ない濃厚な時間を過ごしている。


 女中の多恵は長年に渡りこの陸に仕えているお手伝いだ。


「本当にお可哀そうに……ううっシクシク(´;ω;`)ウッ…それでも…どうする事も出来ない。ううっ(´;ω;`)ウッ…」


 叔母の名前が詩織で逢瀬の相手の名前が沙織、これはどうも怪しい。古今東西年上の女性に狂って家庭を捨てた話は聞く話である。


 年上の女性に溺れてしまった陸が付きまとう女たちに嫌気がさして、殺人を繰り返しているとも考えられるが、一方で容姿も崩れて陸にいつ捨てられてもおかしくない状態の、叔母詩織が殺害を繰り返しているという事も十分に考えられる。



 早川葵と今井絵里殺害犯人はもしかして……この沙織(詩織)?ではないだろうか?


 そう言えば陸はこの沙織とだけは延々と長きに渡り、1度も途切れることなく15年も交際が続いている。


 確かに……レイラとも交際が続いていると言われているが、レイラは只々夫富田の手助けをする為だけに、仕事上の付き合いをしているだけなのかも知れない。

 だから……愛し合っているのは只1人沙織(詩織)?だけなのかも知れない。


 沙織にすれば早川葵と今井絵里が邪魔で仕方ない。

 そう考えると沙織が一番この事件の首謀者に近い気がする。

 だが、その沙織の存在が全く掴めない。沙織はどこにいて何者なのか?


 ★☆

 

 陸と沙織が付き合いだした経緯はどのようなものだったのか?


 実は……沙織の父は沙織が中学に入って間もなく大腸癌が判明した。その為父の弟が急遽事業を暫く引き継ぐことになった。


 当然仕事場である会社が家にあるので、暫くは沙織の家で生活する事となった。


 だが、沙織の母は非常に美しい母で、父が癌治療中で家にいない事を良い事に弟が、夜中に母の寝室に侵入してとんでもない事になった。


 そんな酷い事をいとも容易く堂々とやってのけるのには訳があった。実は仕事上……仕事場に近い場所である離れに両親の寝室があったのだ。それは仕方のないこと。だから……怪しい行動を取っても離れているので子供に気付かれる事は、全くないという事だ。


 それでも……同意もなしにそんな真似を、それも兄の妻に手を出すとはとんでもない男。第一義姉が容易く身体を許す訳がない。


 当然それはそうなのだが、この時既に義姉は夫の死の宣告を受けていた。そして…義姉が家業を継ごうにも修行もしていない義姉に何が出来よう。今更家業を継げる訳がない。それに比べて弟は父から仕事を叩きこまれていた。


 こんな事情もあり、事業を切り盛りして子供を一人前にするためには、好きでもない弟に身をゆだねるしかなかった。


 ★☆


 実は……7歳も年上の義姉の事が忘れられずに婚期を逃していた弟忠司は、中学生の頃兄が義姉を連れて来た時から、心のどこかに義姉に対する思いがくすぶり続けていた。


 忠司にすれば義姉は初恋の相手だった。美しい義姉は中学生の女子たちが逆立ちしても敵う相手ではなかった。


 だが、兄が癌になった事でやっと思いが達成出来る時がやって来た。こうして念願叶ってやっと一つ屋根の下で義姉と生活できるようになった忠司は、兄が万が一にも癌が治って家に帰って来る可能性だってある。兄が退院しない内に何とかして義姉を自分の者にしようと考えた。


「お姉さん俺は以前からお姉さんの事が好きだった。兄がもう余命幾ばくもない今、俺がお姉さんを助けたい」


「何を言っているの。夫が死ぬなんてウウウッ( ノД`)シクシク…そんな事……( ノД`)シクシク…そんな事……考えられない」


 だが残念なことに、そうこうしている内に父は呆気なく大腸がんでこの世を去った。こうして……夫より10歳も年下の忠司が母と結婚した。


 母にしても致し方ない。子供を抱えて家業を切り盛りするには、どんな事をしても男手が必要だ。


 この時母は45歳で忠司は38歳。


「お義姉さん僕はお義姉さんのことをずーっと思い続けていた。やっと念願かなって結ばれる事になった。一生をかけて大切にするよ💛💕」


「夫が亡くなった今あなたに縋る(すがる)事しか出来ないわ」

 

 夫が亡くなり新たな生活が始まった。だがここで事件は起きる。幾ら美しい母と言えども時は残酷だ。弟と義姉の年の差は7歳差。母はどんどん歳が行き反対に娘沙織は目を見張るほどの美少女に大変身して行った。


 こうして……美しく成長した沙織が幾ら我が娘と言えども赤の他人だ。母が買い物に出かけた隙に仕事場からやって来て沙織を犯そうとした。いきなり沙織の部屋に入って来るなり、ベッドに沙織を押し倒した。


「お義父さん何をするのヤメテ!」


「誰が食べさせてやっていると思っているんだ。もし……いう事を聞かないのであれば家業を放ったらかして出て行く。そんな事になったら困るだろう。だから……いう事聞け!」


「もしこれ以上近づいたら……お母さん言うから」


「そんな事をしたらお前だって……この家に居られなくなる」


「ともかくイヤ――――ッ!」


 こうして義理の父を蹴り倒して逃げた。こんな事があり沙織は陸の家に避難した。



 


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