第9話 絵里殺害犯


  

 早川葵が殺害されて既に3年、犯人が捕まらないまま時だけが過ぎて行った。一方のHINATAは17歳でスカウトされて「マリンモンスター」でデビューしたが、既に20歳となっていた。


 あんなにダイコンダイコンと言われていたが、余程悔しかったのか努力を重ねた結果大輪の花を咲かせ、あれだけ大根だったにも拘らず、すっかり演技派女優の仲間入りを果たしていた。歳月というものは人を変身させる事もある。


 演技にも幅が広がり、兄という強い後ろ盾のお陰で兄の作品には必ずといって良いほど出演しているHINATAだったが、そんなHINATAにも最近は彼氏と呼べる男性が出来た。


 それはイケメン俳優の島崎健斗だ。何と交際が始まって早1年、今回は兄陸と陸の彼女絵里も一緒に4人でこの軽井沢にやって来た。


 4人は蒸し暑い東京を逃げ出して休暇を利用して、この避暑地軽井沢にやって来たのだが、既に黒い悪魔が今か今かと憎い相手をつけ狙ってじわじわと近づいていた。


 だが……4人はすっかり浮かれ気分で悪魔の影に気付いていなかった。油断大敵とはこのことだ。


 ★☆ 

 楽しみにしていた日はやって来た。せっかくの休暇だ。恋人同士、兄妹同士水入らずで行きたい、なので運転は陸が買って出た。


 そこで……陸の運転で出掛けると聞いた編集者さんからしっかりクギを打たれた。陸はいつも出掛ける時は事務所の社員に運転を頼んでいる。だから慣れない運転で危険だという事でしっかり釘を刺されたのだ。


 陸は元々漫画を描く事だけに集中したいオタク気質のタイプだ。

 余り人目を気にしないタイプで、車も乗れれば何でもいいというタイプで小回りの利く軽自動車でも良い位なのだが、これも編集者からクギを刺された。


「頑丈な車にして下さいね!」という事で軽自動車は持っていない。頑丈と言えば外車を想像するが、元来格好つけるタイプでもないので、日本車の運転しやすい右ハンドルの高級国産車センチュリーにした。


 こうして……4人で軽井沢に出掛けた。

 

 ホテルはHINATAが予約してくれた軽井沢キングダムウエストホテルに、予約を入れてあったので早速チェックインして、まだ夕食まで時間が有ったので、直ぐ近くの軽井沢 キングウエスト ショッピングプラザをぶらぶらしながら、買い物を楽しんだ。


 帰って来てゆっくり温泉に浸かり体を癒し、食事は色とりどりのビュッフェディナーを4人で楽しんだ。信州産食材にこだわった窯焼きやグリルメニューの数々を堪能した4人は、夜にまたしても軽井沢 キングウエスト ショッピングプラザにやって来た。


 それは「夜はイルミネーションが点灯して幻想的だ」と聞いたからだ。


 行って見るとやはり言われた通り、ツリーモール芝生のひろばに広がる約10万球のブルーとホワイトの涼やかなイルミネーションが、幻想的で何とも神秘的で軽井沢にやって来て良かったとつくづく思った4人。


 だが……その間にも悪魔は4人を包囲し一歩また一歩と狙いを定めていた。


 犯人の狙いは一体何だったのか?やはり……陸に近づく女を憎んでの犯行なのか?陸の彼女を消すことで陸を自分の者に出来る。そういう事なのか?


 その時……何か、これから起きる事件を暗示するかのような、何とも幻想的でゾッとするほど不気味な霧が一面に立ち込めた。


 山の気候は、霧が発生することが多いのだが、気温差が激しいためか濃霧が続いてスモークを焚くように、どこからともなくシューっと湧き出てきて、あっという間に視界が真っ白になった。すっかり霧に包まれ霧の森は幻想的な風景に包まれた。


 ★☆

 翌朝はキングウエストホテル内のアクティビティだが、宿泊しなくてもできるアミーチアドベンチャーでツリートレッキングをやった。以前から友人にすすめられていたアトラクションだが、ツリートレッキングは木々の間をつり橋を渡ったり滑車で空中飛行したりしながら渡っていく少々スリリングな体験だたがとても楽しかった。

 皆でキャ――ッ!キャ――ッ!言いながらも次は「雲場池」に出掛けた。


 「雲場池」は地元では「お水端(おみずばた)」と呼ばれ、かつての外国人避暑客からは「Swan Lake(白鳥の湖)」という愛称も持つ美しい池だ。また……かつては白鳥が飛来したことから「スワンレイク」とも呼ばれる。静かで美しい池の周囲には遊歩道が整備されており、のんびりと散策を楽しめる。秋には赤や黄に染まる木々が湖に映し出され絵画の世界となる。

「わ~綺麗ね。空気も澄み切っていて東京に帰りたくない」


「本当ね!」


「おい……バカ言うんじゃないよ。わっはっはっは」


 暫く池の周りを散策して次は女性陣が雑貨を扱うお店「花の妖精」に行きたいというので早速向かった。


 こうして……雑貨などを取り扱う可愛いお店「花の妖精」にも立ち寄った。30年以上にわたって続く老舗で、洋服や人形などの雑貨を販売している。


 そこで……HINATAは可愛い西洋人形を買って何とも満足気だ。一方の絵里も東京では見かけないアンティークのフリル付きの洋服を買ってほくそ笑んでいる。こうして……夜の帳が下りた頃、白糸の滝のライトアップを見るために最後に白糸の滝に向かった。


 丁度その頃軽井沢・白糸の滝イリュージョンは幻想的にブルーの無数の糸が垂れ落ち幻想世界を演出していた。あまりの美しさに見入っていると一層幻想世界が広がり圧巻の一言に尽きる。


 「軽井沢 白糸の滝 真夏のライトアップは、夏ならではの幻想的な景色を堪能出来るね」


「本当だね。涼みながら見ていると暑さを忘れる。数百条の地下水が白糸のように落ちるのを眺めていると本当に心が洗われる。幻想的な滝の姿を楽しむことができて最高!」


 そう2人で言いながら碧の世界を堪能していると、兄陸がHINATAと健斗がいる場所に血相を変えて飛んでやって来た。


「オイ!絵里どこかで見掛けなかったか?トイレに行くと言って俺と別れてもう1時間以上経つんだ。おかしいだろう?」


 こうして……HINATAの彼氏健斗と3人で絵里を必死に探した。それでも見付からないので軽井沢警察に届けた。


 3人は不安を抱えながらもホテルで待機している。一体どこに消えたというのか?


 陸はふっと居なくなる数分前の絵里の不審な行動を思い出した。そう言えばあの時俺と「白糸の滝」を見ていた時に絵里の携帯に引っ切り無しに電話が入っていた事を思い出した。


「嗚呼……どうしたの?えっそっちに来てってどういう事?……分かったわ……うんうん分かった……ちょっと待ってね?はっはっは」


 随分親しげに笑顔で話していたが?

 そして……その後急にそわそわして俺に言った。


「トイレに行ってくるから待っていてね」と言って消えた。


「誰から電話だったんだい?」


「それが……変なのよ『電話したことは誰にも言わないで!』だって……」


 そして……「じゃあトイレに行ってくる」これが絵里の最後の言葉となった。


 ★☆

「あっ!軽井沢警察だが、東京から見えている田宮陸さんをこちらに呼んで下さい」

 陸が慌ててホテルの部屋から飛び出しホテルのフロアーにやってくると、警察官2人がソファーで待機していた。


「あっ陸さんですね。絵里さんが見つかりました。それがですね……非常に残念な結果ですが、白糸の滝の鬱蒼とした林の中から他殺体で見つかりました。何か……紐のようなもので締めた跡がありました」


「ええええええ……そんな……そんな……ウウウッ(´;ω;`)ウッ…( ノД`)シクシク…一体どうしてウウウッ」


 ★☆

 深夜にも拘わらず多くの警察車両でごった返す滝の白糸に早速検視官 がやって来て、遺体の状況から事件性があるかどうかを判断する為に必死に捜査に当たっている。

 その結果首を絞めたことによる頚椎の骨折が死の原因と考えられる。こうして殺人事件として捜査が開始された


 それでも紐というよりベルトで絞殺した跡があったので、凶器はベルトと考えられる。あの時電話して来た相手は誰だったのか?





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