第7話 陸の秘めた恋

 


 死亡時刻とされる2日前4月2日の夜6時から11時頃、陸は森田治との対談があったので犯行は無理だとは思うが、それでも…怪しい行動の数々に容疑が晴れない。


 そうなのだ。それでも……犯行は無理だとは思うが?でも、6時から11時までずっと対談していた訳ではない。


 実は……1時間ほどで対談は終了して後はお近づきのしるしにという事で祇園のクラブに移動して、ホステスをはべらせ深夜に別れていた。


 この事実からも分かるようにどうも……陸は犯人ではないように思うが、確かに午後5時頃嵐山のバーで葵と一緒にいた事は確認は取れていたが……。


 

 ★☆


 どうも……陸と葵2人の間柄は周りが思うような関係ではなかった。


 実は……早川葵は芸能界で這い上がりたくて、仕事が貰いたくて、陸に近づいたのだが、どうも……今までのようには行かなかった。

 

 今まではプライドが高くて見栄っ張りで向上心の塊の葵は、良い役がもらえる為だったら、監督、プロデュ―サー、スポンサーが例え、よぼよぼのおじいちゃんだろうが、巨体のデブだろうが、ハゲちゃびんだろうがお構いなし。ころころと枕に徹していた。


 だが今回の陸は初対面こそ、ぼさぼさ頭の瓶底メガネの冴えない青年だったが、漫画の大ヒットでマネージャーが付き、スタイリストが付きして、見違えるほど容姿が変わってしまった。それは何も陸が手配した訳ではない。陸自身は漫画の世界に浸り満足しているのだが、周りが放って置かない。

(こんなにみすぼらしくては日本が笑われる)こうして……周りがお膳立てをしたのである。海外でも人気の漫画家が余りにもみすぼらしくてはと動いたのだった。


 こうして見違えるほどのイケメンに変貌を遂げた陸に狂ってしまったのは葵だ。


 一方の陸の方はというと?今までは漫画の空想世界に浸るオタク青年だったので誰にも見向きもされなかったが、対談だ!握手会だ!と余りにやぼったくってはと、マネージャーがスタイリストを付けたお陰で180度人生が変わり、アイドルスター並みのモテ男になってしまった。


 葵は今までは枕は役をもらう為の手段でしかなかったのに、陸との時だけは上り詰める手段抜きに、人間として女として愛されたいと強く思うようになった。


 それは葵の勝手でしょう。陸はそうは思っていない。最初こそ瓶底メガネのぼさぼさ頭で女といえば母親か妹HINATAくらいしか相手にしてくれなかった。だが今は違う。一歩外に出れば女が群がる群がる。


きゃーきゃーうるさい!うるさい!


 そんな身分の有名漫画家が、大して有名でもない大して美人でもない葵で満足出来るできる訳がない。


 こうして事件に発展する

 

 ★☆

 田舎育ちの葵は北海道の沼田町という自然豊かな地に生を受けた。沼田町は、旭川市から西に45kmほどの場所にある町で、豊かな自然と田園風景が広がって人口は約3,000人とのんびりとした雰囲気が人気の地域だ。


 また半径500m以内に生活に必要な施設が揃っており、移動を最小限に抑えられることがメリットの近年北海道移住ランキング1位に輝いた地でもある。


 この様な場所ですくすくと成長した葵は、まさしく「井の中の蛙大海を知らず」そのもの。葵の為にある言葉で葵はまさに大海を知らずに育ったカエルだった。


 人口約3,000人の田舎でチョット勉強ができる。チョット可愛い子と、いってもたかが知れている。

 

 こうして……世間に出てみて自分のちっぽけさを知った葵だったが、それでも……今までは人口約3,000人の田舎ではべっぴんさんで通っていた。


 そんなプライドを持った女の子が、今更自分の性格を変える事などできない。元来プライドが高くて見栄っ張りで向上心の塊の葵。


 それでも…親が資産家で名の通った親だったらまた違っていたかも知れないが、両親は農家が主だった収入源で、道産米の評価では最高位にランクされている「ななつぼし」や「きらら397」を主に生産しており、その他大豆・ソバ、メロンなども栽培をしている大農家だった。


 こうして……上り詰めるために枕を繰り返していた葵だったが、陸だけは違った。自分より3つも年下で才能の塊の超イケメンに狂ってしまった葵は肉体関係を結んでからというもの、陸の事が片時も忘れられず電話攻撃。まちぶせ。他の女との交際が分かるや否や陸のマンションに押し掛け他の女の入る余地なし。


 陸にしてみれば堪ったもんじゃない 。迷惑の何物でもない。葵が一方的に言い寄って来て深い関係になっただけの事で、陸は葵の事は最初から何とも思っていない。愛する本命彼女にキレラレ陸は大迷惑。


 それでは陸の本命彼女は一体誰なのか?


 ★☆

 早速山城と飯田は富田監督の妻レイラ夫人から聞いた、田宮氏の妹でアイドルHINATAの友達と交際関係にある人物に会うには、まず妹でアイドルHINATAに会って聞くしかないと思い妹HINATAが働くスタジオに向かった。


 ここで言って置かなければならない。田宮「氏」というと中年のイメージだが、実は……大学生の21歳でデビューして1年しかたっていないので、まだ田宮陸は若干22歳だ。


 あっ!アイドルHINATAは今日はどこに居るのやら……

 アイドルHINATAは女優、歌手、タレント、モデルとフル回転だ。

 

 今日は歌手として「ミュージックナイトデイ」に出場するためにTWS≪Tokyo world System Television≫のスタジオにいるアイドルHINATAに会いにやって来た山城と飯田。


「警察の者だが、お忙しい所すみません。アイドルのHINATAさんチョットお願いします」


 暫くするとHINATAが現れた。

「あっ!HINATAさんですね?実はですね先日殺害された早川葵さんの事でお聞きしたいのですが?」


「どのような事でしょうか?」


「HINATAさんは『おばんざい梅ノ木』で食事を終えて直ぐ帰られた訳ですから……事件とは関係ないとは思いますが、あの後の行動を一応教えていただけますか?」


「私はマネージャーの車で清水寺に向かいました。それはコマーシャル撮影です。結局夜までかかりました。その後新幹線で東京に戻りました」


「嗚呼……そうだったのですね。チョット聞きたい事があるのですが、お兄さんの陸さんの事ですが、あなたのお友達と交際関係に有ると聞いたのですが?」


「確かに……お友達として私も一緒にあちこち出掛けております」


「という事は個人的にお付き合いされている可能性もありますよね?」


「まあ……それはそうですが?」


「お名前お聞かせ願えますでしょうか?」


「上原美幸といいます」

 その時HINATAの顔が少し歪んだ。何か……あまり触れられたくない事実があるのかも知れない。


 こうして……スタジオを後にした2人は、4月で大学生となった上原美幸の自宅に向かった。今日は土曜日なので授業はない筈だから家にいるだろう。


 ★☆

 東京都目黒区自由が丘に上原一家が住むマンションが有った。


 エントランスの受付で呼び出してもらうと、程なくしてマンション内の7階の705室に通してもらえた。


 705室のマンションのインターホンを押すと40代後半位の優しそうなご婦人が顔を出した。


「警察の者だが、美幸さんはご在宅ですか?」


「あっはい!おりますが?何か……あったのでしょうか?近所に聞こえますから……どうぞお上がり下さい」


 暫く待っていると美幸が現れた。HINATAちゃんのお友達だけあってお洒落であか抜けた娘さんだった。


「あっ!私の部屋に来てください」

 こうして……2階の美幸の部屋で話を聞くことになった。余程聞かれたくない話があるのだろう。

 部屋に入ると女の子の部屋らしく、シンデレラ姫のお人形さんや人魚姫の人形がずらりと並んでいた。更にはフリフリのレースカーテンにピンクの花柄のカーテンと何ともメルヘンチックだ。


 こうして2人はピンクのソファーに座り話を始めた。

「実は……早川葵が亡くなった事はご存知ですか?」


「ニュースで知りましたが、私はその方とは何の面識もありません」


「そうですよね。そこで……早川葵と交際中だった陸さんの事は知っていますよね」


「交際関係は知りませんが、HINATAのお兄さんとはよく遊びに行きます」


「あなたと陸さんは交際中なのですよね?」


「…………」


「ハッキリ言って下さい」


「私みたいな子供相手にしないと思いますよ」


「けれど……HINATAさんも交際関係は認めていらっしゃいました」


「そうですか。じゃあそうして置いておいて下さい」


「煮え切りませんね。この事件は陸さんの女性関係が原因だと我々は踏んでいます。調べていく内に葵さんの嫉妬深さは尋常じゃなかったと言います。ですから……ハッキリとした関係をお願いします」


「私達3人は只の友達です。確かにあちこちに3人で出かけますが、彼女ではありません。私も彼女だったらどんなに嬉しいか!私も陸兄さんの事が……でも……でも……陸には秘めた恋が有るのです。その女性の名前は口が裂けても言えません」


 一体その秘めた恋の相手は誰なのか?


 

 やはりあの富田監督の妻レイラが怪しい。

 確かに……美幸ちゃんは可愛いけど……引っかかるのはやはり富田監督の妻レイラさんが一番怪しい。


「それにしても……田宮氏の女性関係は派手ですね。でも……あのレイラさん絶対に本心を話していませんね。な~んか……隠し事をしている感がぬぐい切れません。あの……怪しい目つき絶対に何かありますって?」







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