第4話 犯人は誰?


 早川葵は一体誰に殺害されたのか?


 皆目見当が付かない。それではあの後どのような展開が待っていたのか?

「おばんざい梅ノ木」で食事を楽しんだ後、嵐山の桜見物に出かけた面々は渡月橋から山々に丁度見頃を迎えた、緑の木立の合間を縫って咲く山桜が綿あめのようでもあり、花柄模様の傘のようでもあり、余りにも美しい山桜が野山を覆いつくしているのを見て只々自然の美に感激で一杯だった。


 こうして面々は各々に美しい桜を思う存分堪能した後。鬱蒼と伸びる竹林の小径を歩いたり、常寂光寺、二尊院、清涼寺の見事な桜見物をして花見の1日は終わった。


 ★☆

 それでは……桜見物はどのようなものだったのか?


 そう言えばあの時チョットしたアクシデントが起こっていた。

 それは高々とまた鬱蒼と伸びる竹林の小径を歩いていた時だった。


 あの時、お父さんにおぶられながらも花音はアンテナを張り巡らせていた。そして……花音は途中で言った。


「パパ下ろして!」


「どうしたんだい?」


 そう言って下りると一目散に消えた。


「ママ放っておいては危ない。携帯に電話して!」


 ”トゥルルルル“ ”トゥルルルル” ”トゥルルルル”

「ママなーに?今忙しいのよ」


「もしもし?今どこにいるの?」


「プ――プ――プ――」


「切れちゃった」


「嗚呼……GPS追跡アプリで居場所が特定できるから調べてみよう。おーおーびゅうびゅう 走る事!走る事!嗚呼……止まった」


 花音は何故この様な行動に出たのか?


 ★☆


 花音は芸能界が全て。芸能界しか知らない。


 今までの大人たちを見ていると行動にツ―パターンある事を熟知していた花音は、急に静かになり、1人もしくは2人になろうとするパターンには、ツ―パターンあると理解していた。


 仕事で壁に突き当り落ち込む、それか……注意を受けてシュンとなるパターンと、もう1つは大人の事情、好きな子と隠れてキスしたいが為に急に静かになりこの場所から一刻も早く立ち去りたい場合がある事を熟知していた。


 実は……花音は見ていた。

 あの葵が歩く歩幅を急に緩め後ろに後退して行った。そして陸に意味深な目つきを投げ掛けると、その時葵が誰も見ていないと思って陸の手をギュッと握って引っ張った。


 そして益々歩く速度を緩めた。花音親子をけむに巻いてやることは1つ。花音は眠い目をこすりながら陸と葵の行動をチェックしていた。


 そして目でしきりに陸に合図を送っている。

(なるほどー2人になりたいんだ)


「嗚呼……俺達は桜が見頃の後常寂光寺、二尊院、清涼寺の見事な桜見物をしてきます。やはり親子水入らずの方が宜しいでしょうから、集合場所は渡月橋のたもとで4時という事で」


「ハイ分かりました」

 こうして別れた。

 

 居てもたっても居られなくなった花音は眠気も収まったので、2人を追いかけた。すると……案の定2人は木の生い茂った陰に隠れてキスをし出した。


 何でこんな真似をするようになったのかというと、花音は今まで大人たちが隠れてキスをする場面を偶然にも何回か見た事があった。


 それは何も見ようとしてワザと見た訳ではない。花音が小さ過ぎて居る事に気付かず偶然にも見てしまった。


 それは6歳になったばかりの頃だった。


 その時は幼過ぎて何も分からなかったが、それから2カ月もしない内にまたしても花音が小さすぎて、太鼓の陰に隠れて見えなかったらしく花音の目の前で、あれは確か……有名ミュージシャンと有名アイドルが、かなり濃厚なラブシーンをして、その時……何かしらこんな小さいのに訳の分からない興奮を覚えたのを記憶している。


(全く大人のやる事は!)そう思ったものだ。

 こんな事もあり花音は大人子供になってしまって、やけにマセたガキになってしまった。こんな事情があり大人の色気づいた場面に興味を持つようになってしまった。

 


 ★☆

 あの後陸と葵はどうなったのか?


 キスが終わると今度は、こんな白昼堂々と何をするかと思いきや、葵が服のボタンを外し始めた。こんな所で何という事を……。


 それが……2人も余程注意をしたのか木が生い茂り完全に見えない。それでも高い位置からだったら見える。準備万端事を始めようとする2人だが、好奇心旺盛な花音ちゃんは木に登り2人の行動の一部始終を見ようと必死だ。


 だが、その時残念なことに枝が折れて落ちってしまった。


”ドッスン”

「キャ――――ッ!」


 花音ちゃんどうしたんだい。


「テへヘヘ😛」

 


 この時両親たちは花音の後を必死に追っていた


「私達も急ぎましょうよ」


 こうして……追いつく事が出来た。


「花音待って!花音」


「ハーハーハ―どうしたというの急に居なくなって……」


「どうしたんだい?」


「まあ良いか?さあ帰りましょ」


 こうして……みんなで近くにあったソフトクリーム屋さんで宇治抹茶ソフトクリームを買い、食べながら駐車場まで戻った。


 こうして見る限り、この後凄惨な殺人事件が起ころうとは誰も思わなかった。


 ★☆


 そこで早速右京警察の山城と飯田が捜査に当たった。


 今度は花音の両親を当たる事にした2人。自宅は東京の下町上野の住宅街にあった。古くから近所付き合いが盛んな、和気あいあいとした庶民的な場所に住んでいた。

 

 幾ら下町と言えど…親から譲り受けた広大な敷地には目を奪われた山城と飯田だった。どうも……以前は2世帯住宅だったらしく入り口が2か所となっていて、かつて祖父母が住んでいた事を彷彿とさせる大きな家だった。


 ”ピンポン“ ”ピンポン”


「ハーイ」

 そう言うと30代後半の、花音ちゃんにどことなく似た雰囲気の女性が姿を現した。


「警察の者だが、あの~先日早川葵さんが殺害されまして……そのことで2~3聞きたいことがありまして」


「どうぞお上がり下さい」


 洋風の応接室となっていたが、隣の部屋にはいかにも時代物の茶だんすが置かれてあり、高齢者が住んでいた事が如実(にょじつ)分かり、尚且つ2世帯住宅だった事を彷彿とさせる名残が残っていた。


「あのですね……お嬢さん花音ちゃんは早川葵さんとは、お仕事一緒になった事は有るのですか?」


「嗚呼……「マリンモンスター」第3弾ではご一緒する事になっておりました。それで……あの日ご一緒した次第で……」


「そうだったんですね。あの日何かお気づきになった点はありませんでしたか」


「ともかく……あの先生はおモテになる方で大変でした」


「ええぇ……エエエエエエェェエエエエエエッ!僕らがお邪魔した時はぼさぼさ頭の冴えない若者にしか見えませんでしたが?」


「嗚呼……確かに雑誌のプロフィールの写真は、ぼさぼさ頭に瓶底眼鏡で冴えない若者にしか見えません。それでも…髪の毛を整えてコンタクトにしたら超イケメンです。まだメディアに取りざたされてそんなに経っていませんから、実物を知らない人は多いと思います。モデルやタレントではないですから……お洒落に気を配らないだけで実際は超イケメンです。だから……モテモテでこれだったら女が放っておかないと思いました。だから……引っ切り無しに携帯に電話が入っていました。第一あんな売れない女優と付き合っているなんてビックリです。本命がどこかにいる可能性があります」


「やはり……犯人は女でっしゃろうか?」


「先生と早川葵さんが交際していたと聞いてピン!ときました。これは先生の奪い合いで起きた事件だってね。アッ!それでも……以前葵さんには付き合っていた男性がいたらしいです。チラッと聞いた話ですが、結婚前提で交際していたらしいですよ」


 「分かりました」


 こうして……陸と交際関係にある女性を片っ端から当たる事になった山城と飯田だったが、葵に以前彼氏がいて結婚目前の彼氏がいたとは……。


 そんな時早川葵が最後に目撃された嵐山のバーで5時頃陸が顔を出していたことが判明した。

 やはり……陸の犯行なのだろうか?


 動機は一体何なのか?


 








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