第2話 女優早川葵


 トップアイドルひなたは芸名が「HINATA」

 ひなたは女優業もこなすが、歌手としても活躍している。


 15年前兄陸の漫画本「マリンモンスター」が実写化される事になり、映画会社からのたっての希望で海のお姫様役として出演が決まった。こうして……ひなたは日本屈指のアイドルスターとなって行った。


 この「マリンモンスター」という漫画のあらすじは、海の中に生息する正義の味方怪獣「シャークラー」が正義のために陸海空の悪者を退治するというお話。


 この時HINATAは主役級の扱い、海のお姫様で「ピーチ姫」だったが、お供役の重要なハナ役を何と弱小芸能事務所の無名女優早川葵がゲットした。


 そこで……極一部の芸能関係者から小耳に挟んだ話だが、どうも監督との枕で勝ち取ったとの噂が囁かれ、更には原作者とも深い関係になって役をゲットしたのだとか?


 それというのも本来ならばオーディションで選ばれたり、大手事務所の肝いりで決まる所、弱小芸能事務所の無名女優という事で、まことしやかに然もそれが事実であるかのように業界内で囁かれ続けた。まあ多分……やっかみ半分と言う事も往々にしてあるとは思うが……。


 ★☆

 早川葵は弱小劇団から這い上がった現在24歳の女優だ。

 売れない時代はクラブやソープで働いていたともっぱらの噂。そして……現在もアルバイトを掛け持ちしている努力家でもある。


 当然スカウトや、厳しいオーデションで勝ち抜いて芸能界デビュー出来たアーティスト、歌手、俳優、タレントモデルも多いが、その他に芸能界で活躍出来る俳優やタレント、モデル達は、両親が政治家、大企業の重役、芸能界の大御所、会社経営、病院経営などの子女が非常に多いことでも分かるように、そうおいそれとは芸能人になれるものではない。


 要は大金、コネも必要という事だ。


 そんなある日、よく行くクラブで陸は取り巻きたちとホステスをはべらせお酒を飲んでいた。そこにやって来たのが無名女優早川葵だった。どうも事務所がプッシュして送り込んだらしい。


 早速葵はホステスたちを追い払い陸の隣りに潜り込み、お酒のお酌と決め込んでいる。

 陸はお酒を次から次に注いでもらいすっかり出来上がってしまった。


 そこに来て元クラブホステスの本領発揮。膝に手を置き甘く囁く。


「今夜わたしを好きにしてください。チュ💋💛💕」」頬にキスした葵。


 ギラギラ😍💓💕💖🔥 ギラギラ ごっくん😍🤪

 

 こうして……陸と葵はホテルに消えた。


 ★☆

 撮影がスタートすると葵はスタッフに気に入られる為に暇な時間があれば、裏方の簡単な雑用をこなしたりと、気配りがよく出来るとスタッフの間でも上々の評判となって行った。

 折角勝ち取った大役だ。これを皮切りに気に入ってもらい枕営業でも何でも嫌がらずに引き受け、上り詰めようと必死になっている。


 また「HINATA」にぴったりと付き、ご機嫌伺いもしっかりできる典型的なゴマすりヨイショの達人だ。本人にすれば必死だ。ましてや原作者の妹ともなれば怒らせたら大変。ゴマすりに徹せねば!


「HINATA様今日は一段とお美しい。演技も天才!やはりお兄様と一緒で才能の塊ですね!」

 余りのゴマすりに食傷気味のHINATA。


「葵さん……私はどう見ても演技は大根。そこまで白々しい歯の浮くようなヨイショ止めて欲しいわ。ふっふっふっ!」

 こう言いながらも兄陸からは、散々厳しいダメ出しを食らっているHINATAは、ヨイショとは分かっていても、ついつい顔が緩んでいる。


 ★☆

 ある日の田宮家だ。


「お前!俺の漫画台無しにしてくれているらしいな?このダイコン!」


「何が大根よ。いい加減にして!私のお陰で10代20代の男子が大勢映画館に詰めかけている事も忘れないでね!」


「バカ言うんじゃないよ。俺の漫画を買う世代は10代20代男子が70%だ。お前が居ても居なくても関係無い。俺の漫画は若い男子が憧れるヒーローものやバトル・アクションものが主だからな!」


「兄ちゃんなんか大っ嫌い!」


 喧嘩が絶えない陸とHINATAだった。


 ★☆

 興行収入が予想を大きく上回ったので早速第2弾が製作される事となった。

 

 海のお姫様で「ピーチ姫」は相も変わらずHINATAが選出された。それは当然あれだけ華やかな「ピーチ姫」の役はHINATA抜きでは考えられない。ダイコンでチョット棒読みの感はぬぐい切れないが……。


 あっ!そう言えば……あのお供役の重要なハナ役なのだが、早川葵はどうも……降ろされてしまった。


 あれだけスタッフからの評判も上々だったのに何故?


 それは……何も葵が悪い訳ではない。


 実は……今度のハナは幼少期が殆どで出番がないからだった。

 そこで選出されたのが大手事務所の有名子役の前田花音ちゃん6歳だ。天才子役と持て囃されているだけあって、実に辛辣な意見を口にするチビッ子だった。


「おばさん演技棒読みだよ!ダイコン!」


「ええええ……エエエエエエエエェェエエエエエエ!18歳の私をおばさんだと――――ッ!それから……こんなガキに棒読みでダイコンだと――ッ!」


 前回ハナ役の葵さんのように、歯の浮くようなお世辞、ヨイショもどうかと思うが、今度のガキは何とも容赦のないダメ出しに怒り心頭のHINATAだった。


(ムムムッ……あのガキ――――ッ!今に見ておれ!😠)

「お兄ちゃんあの前田花音絶対イヤだ!誰か違う子に変えて!」


「それでも…世間では天才子役の名を欲しいままにしている天才児で、ましてや大手芸能事務所の肝いりで決まった子だ。どうにも出来ない」


「チッ!何とかして!こっちがストレスでどうにかなりそうだ!」

 いくら原作者の妹といえども、大手事務所の天才子役ではどうにも出来ない。

 こうして……映画撮影がクランクインした。


 ★☆


 そんな時女優早川葵が丁度桜の見頃4月初旬に京都の嵐山に出掛けた。


「仕事関係の人達と嵐山に桜を見に行く」と言い残して出掛けたは良いが、旅行先の嵐山の奥まった場所で遺体で発見された。


「仕事関係の人達と一緒に行く」と言っていたが、誰と出掛けたのだろうか?

 

 その仕事関係の人達の足取りが全くつかめていない。

 

 そう言えば陸とその後交際は続いていたのだろうか?


 そこで所轄警察、右京警察署が事件解決に乗り出した。右京警察署は、京都最大の観光地である嵐山一帯を管轄している。

 

 早速山城と飯田が捜査に当たった。


「本間にえらい事やで……」


「あんなに人出が多い時期にさして有名でもない最近ぼちぼちメデアに、顔を出し始めた女優早川葵を、この嵐山で特定する事は容易ではない」


「本当ですよね山さん。女優さんは帽子を被ったりサングラスでバレないように変装してますからね」


 早速防犯カメラをチェックしてみたところ、4月2日11時半頃キャップとマスク姿の早川葵の姿を特定できた。


 そして……その時葵らしき人物が、有名なおばんざいの店に入って行く姿が目撃できた。それから数分後漫画家陸によく似た男がおばんざいの店に姿を消した。


 陸には他にも多くの女の影がチラついている。それはそうだろう。日本の至宝だ。当然陸の周りには女たちが、我こそはと近づいている。


 もし今尚陸と関係が続いていたならば、陸の奪い合いから殺害された事は十分に考えられる















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