第33話 ティルの逆襲 2

 ケルンフォンドの船体は文字通り粉々に分解され、エルフも飛竜も船の部品も燃やしながら墜落していった。その様をその場にいたすべての人が呆然と見つめていた。大神も、ユナも、すぐそばにいたユナの部下たちも、上空で待機するエーデルガイドの飛竜隊も、空中戦艦の乗組員たちも、今ブルックヤード泊地へと駆けつけようとしている第4艦隊の乗組員やクルルカの飛竜騎兵たちも……。


 彼ら彼女らだけではない。シェール軍港に向かっていたモスタウィッツ少将たちも突然の後方での光の点滅に気を引き、ケルンフォンドが撃墜させられる様を見ていたのだった。

 

「ああ…。そういうことでしたか…。本当にそもそも彼女1人で十分だったのですね…」

 

 ユナのその呟きはどこか悲しそうで、大神は思わず彼女の顔を見た。彼女の表情はあからさまに諦めと失意の表情に満ちていて、今回の作戦は失敗なのだと悟っているようだった。無理もない。空中戦艦をたった1人で一撃で沈められたのだ。彼女のこれまでの戦闘実績から飛竜隊が束になっても敵わないのは目に見えてるので、直掩隊ちょくえんたいは確実に全滅させられ、空中戦艦に乗り込まれてクルルカ島と同じ惨劇を引き起こすであろうことは予想できた。


「副艦長に、モスタウィッツ少将宛の緊急の報告をするよう伝えてください。ケルンフォンドがティルエール・クロアベルにより轟沈ごうちん。ブルックヤード泊地制圧継続困難。このままでは包囲されてしまうため撤退の必要アリ。少将閣下もただちにこの海域からの離脱を推奨すると」


 そばにいた部下の1人が慌てた様子で通信機を取り出す。


「魔導砲の使用も控えさせてください。彼女はそのエネルギーをそのまま跳ね返すだけの技術を持っています。ただ彼女自身の魔力だけでは魔導砲と同じ威力のエネルギーを放出することはできないでしょう。魔導砲さえ使わなければ撃沈される恐れは……。いえ、ただでさえ最悪の事態を想定できなかったのです。楽観視しない方が良いですね。それでも飛龍隊の身の安全も確保する必要がある。飛龍隊をすみやかに彼女から距離を取らせ、各艦に収容させてください」

「りょ、了解です。で、ですが、その間、クロアベルはどうしますか?」


 ユナは小さくため息を吐き、部下に顔を向ける。


「今この場であれの相手をまともにできる人間が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











 

 

 

 

 

 

 

 私以外にいるとお思いですか?

 

 

 

 











 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場にいた人間全員の背筋が凍る。ユナの部下だけでなく、大神も。

 

「皆さんは直ちに乗船し、そして直ちにこの海域から離れてください。殿しんがりは私が務めます。

 ……シンイチさん。これから私はあの女と戦います。恐らく乱戦となり流れ弾があちこちに飛んでくるかもしれません。あなたはヨナを抱えてとにかくここから離れてください」

「離れるってどこに……」

「哨戒艇を使って海に逃げるのが良いでしょう。陸地にいれば余波で瓦礫が飛んできて危険でしょうから。私が彼女にあなたの居場所を教えます。そうすれば彼女も派手なことはしないでしょう」


 彼女はロッドを抱えローブをはためかせながらゆっくりと宙に浮いた。


「シンイチさん。久しぶりにお話しできて楽しかったです。ヨナのこと…、お願いしますね…」


 そしてそのままティルの元へと飛び立った。

 

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