第32話 ティルの逆襲 1

 ブルックヤード泊地上空にはユナ・ブルムバーグが乗るアルトノーウェンの他、4隻の空中戦艦がクルルカ方面、ショアトル方面から来る連合軍側戦力の到来に備えて待機をしていた。残り5隻はシェール軍港とナカルナの空軍基地に向かっているが、そこを落とせばムルストゥルス地方の補給線は完全に寸断され、クルルカもショアトルも袋叩きにすることができる。それまでの間、ブルックヤードを完全掌握しておこう。


 それが今残っている艦隊将官・将校たちの考えていることだった。この時彼女たちは慢心していた。一度上陸してしまえばティルエールとは戦わなくていいだろうと。


 だから彼女の到来に誰もすぐに反応することができなかった。その隙を突かれてしまった。彼女が現れるやいなや、飛んでいた飛竜隊は反撃するいとまもなく次々と撃墜させられた。

 

「ティルエール・クロアベルです!」

「飛竜隊を一時後退させろ!主砲で迎え撃て!魔導砲の発射用意を!確実にあの女を潰せ!」

 

 アルトノーウェンに随伴している空中戦艦の1つ、ケルンフォンドでは恐慌状態に陥りながらもティルへの迎撃準備に入った。


 主砲に機銃。乱射というような感じでティルに向けて撃ちつけていたが、しかし当の彼女は軽やかに飛び回り、防御魔法で銃弾を逸らしながらそのすべてをかわしてみせた。


 撃っても撃っても当たらないことにエルフ兵たちの心はどんどん焦ってくる。


「魔導砲の準備が整いました!」


 空中戦艦に搭載されている魔導砲。魔力を砲門に集中させて放つタイプのエネルギー兵器だ。


「魔力の塊をぶつけられて無事で済む奴などいない…」


 ケルンフォンドの指揮官はそう呟いてから、乗組員に指示を出した。


「あの女めがけて放て!」


 ケルンフォンドから放たれた魔導砲は狙った通りにティルエールの元へと飛び、そして。

 





 ティルエールに圧縮された。

 





「あら。いわゆる指向性エネルギー兵器ってやつかしら?連合軍の技術部もレーザー兵器の開発頑張ってるみたいだけどもうまくいかないみたいなのよねぇ。この手のものは魔法の方が親和性が高いのかしらね?」

 

 ケルンフォンドの指揮官は目の前で起きたことが信じられず口を開けたまま呆然としていた。


「ありえない…。魔力の塊だぞ…?街を吹き飛ばすほどのエネルギーだぞ…?そのエネルギーを消滅させるだなんて…」


 しかし彼女の理解は間違っていた。ティルは決して魔導砲のエネルギーを消滅させたのではない。あくまで圧縮したのだ。


 今もそのエネルギーは彼女の手元にある。


「お返しするわ。これ」


 圧縮されたエネルギーをティルはケルンフォンドに向けて投げ返す。しかし彼女の手元を離れた途端、圧縮されたエネルギーは解凍され、ものすごい勢いで膨張し、周囲を輝かせ、エルフの騎兵たちが張った魔法障壁を突き破りながら、ケルンフォンドを飲み込んだ……。

 

「なんだ。勝てないじゃないか」

 

 それがケルンフォンドの指揮官の最後の言葉だった。

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