第26話 ブルックヤード沖海戦 3
その日、大神は事務室にはいなかった。かと言って、決してサボって釣りをしていたわけではない。彼はトラックを走らせて泊地の奥にあるとある倉庫へと向かっていたのだ。
「改めて見るとすごいなこれ」
倉庫の中にはなぜ保管してあるのか分からない大量の武器弾薬があった。
ただの武器ではない。そこそこ兵器に詳しい大神から見れば東亜軍から横流しされたものだと分かった。
「南西方面隊はティルエールのファンが多いとは聞いていたが、まさか彼女に頼まれたからって気軽に横流ししちゃいないよな…?」
けれども目の前にある戦車を見て、その予想が正しそうだと思った。
「これ、明らかに
東亜陸軍と東亜工業が共同で開発した戦車『
大神は横流しされている備品のリストをノートに取り、まとめていた。
「この情報、本部に知られたら大変なことになるだろうなぁ」
彼の目はどこか遠いものを見ているようだった。
「しっかし、よく揃えたもんだわ。桑田やリラックが動かせるとは思えないが、陸戦経験のある小隊を1つ2つ割り当てられたらそれなりに局地防衛戦が敷けるんじゃないか?」
ブルックヤードの島の中心部は森で囲まれている。そこをうまく陣取れば、エーデルガイドやアトランティスから上陸を受けてもそこそこ戦えるだろう。それほどまでに武器弾薬兵器が揃っているのである。
「それでも今の泊地の現状を考えると宝の持ち腐れだよなぁ…。もったいない…」
ため息混じりに猛虎を観察する。猛虎はディーゼルエンジン搭載なので軽油が必要とされるのだが…。
「さすがに軽油の調達はやってないか。エンジンも長く温めてないだろうし…。ただの置き物だよな?コレクション感覚か?」
大神は顔を引き攣らせる。
「はぁ…。今度本部に頼んで、陸戦隊の配備でも要望出すか。エーデルガイドの第一機動航空艦隊にでも急襲を受けたらさすがのティルでも一筋縄ではいかんだろうし。陸戦隊が居るのと居ないのとでもアイツの戦いやすさは総じて変わるだろうからなぁ」
無自覚のうちに発したその言葉がまさかフラグになっているとも気付かず、彼は黙々とノートにメモをとっていた。
そうやって作業すること数時間、外が何やら騒がしいことに気がつき、一旦倉庫から出る。頭上を見上げると戦闘機が編隊を組んで飛んでいた。
「ナカルナの航空部隊か?訓練か何かかね?」
それにしては数が多い。まるで迎撃にでも向かってるような様子だ。
「うぅーん…、なんだか嫌な音がする…」
ブルックヤードの森の奥のさらにその先から、辛うじてだが爆発音が聞こえた気がした。
「爆撃訓練だよな?そう信じたい」
しかしその希望虚しく、爆発音はどんどん近づいてきた。
「ヤバいよな?絶対にこれヤバいよな」
背中から冷たい汗が流れ、哨戒艇の近くまでトラックを走らせようとした。しかしその前に空襲警報が鳴り始めた。
「チクショウ!このままじゃ逃げ切れねえ!防空壕に逃げるしかねえな!」
大神はトラックを降りて、倉庫へと走り出す。前回空襲警報がなった時、実際に飛龍が泊地に到着するまで20分くらい時間に余裕があった。念の為武器弾薬を調達して防空壕に逃げ込つことにした。
「ああ、クッソ!どうしてクロアベル大尉がいない時に限って警報が鳴るんだよ!」
重たい自動小銃と替えの弾倉を抱えながら森の中に隠されている防空壕へと向かったのだった。
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