第24話 ブルックヤード沖海戦 1

 シェール軍港所属の連合海軍第6艦隊。彼らはブルックヤードから南方200キロの地点にあるメノム海域を巡航していた。いくらティルが常駐しているとは言え、手広く哨戒ができるわけがないのは明らかで、彼女への嫌がらせの尻拭しりぬぐいを誰かがしなければならなかった。


 西暦2242年9月20日。


 その日も第6艦隊は普段通りに哨戒任務に当たっていた。


「レーダーに反応あり。南東の方角です。距離1000。こちらに近づいています」


 通信士の言葉に艦隊司令官のオルムス少将は「目視で確認せよ」と命じる。


「おそらくエーデルガイドの部隊だろう。こちらに近づくようなら威嚇射撃の準備を」


 艦隊全体に警戒体制が敷かれ、威嚇射撃の準備に移る。


「さて、どこのはぐれ部隊かな?」


 この時、オルムスは大したことはないとたかを括っていただろう。ところが監視員から入った情報に驚愕することになる。


「空中戦艦確認!目視で4隻あります!」


「なんだと!?」


 海軍が持つ空母や戦艦よりも一回り大きいエーデルガイドの空中戦艦。それが4隻あるときた。しかもこちらに向かっているらしい。


「これは挑発か侵略か。ただちに航空隊に緊急発艦させよ。シェール基地にも速やかに連絡を入れろ」


 オルムスの指示に乗組員たちは慌ただしく動き回る。艦隊所属の空母からはジェット戦闘機が発艦し、各護衛艦は対空戦闘の準備を始める。


 戦闘機の編隊は空中戦艦の艦隊へと近づいていった。


『バカな!?10隻はあるぞ』


 編隊長の言葉にパイロットたちは息を呑んだ。目視で入ってきた情報とは大違いだった。雲海に隠れ潜んでいたのだ。


 空中戦をやれば間違いなく撃墜される。


『直ちに信号を送り退去を促せ!』

 

 コレヨリ先、人類連合領。即刻引キ返セ。

 

 信号が見えたのか見えなかったのか、空中戦艦の周りには大量の飛竜が飛んでおり、どの飛竜もエルフの騎兵を乗せていた。

 

 引キ返セ。引キ返セ。

 

 しかし騎兵たちはその通告を無視してどんどん近づいてくる。そして彼女らが持っていたロッドから突然火が吹いた。


『フェニックス2、4、被弾!敵より攻撃あり!迎撃する!』


 すぐさま編隊は距離をとって反撃に入った。ミサイルや機銃が放たれいくつかは飛竜たちに直撃する。飛竜たちを撃墜することはできる。しかし空中艦隊にはかすり傷一つも与えることができないでいた。


 そして飛竜騎兵たちからの攻撃を受け、一機また一機と撃墜されていく。空母からは追加の編隊が飛んでくるが、それでも押され気味で、後退を余儀なくされていた。


「空中戦艦に向けてミサイルを撃て!とにかくこれ以上先に進ませるな!」


 オルムスの言葉にすぐさま動く各護衛艦の乗組員たち。しかしミサイルを撃っても撃っても対空砲で迎撃され、空中戦艦の手前で爆発してしまう。その様子にオルムスには焦りが生まれていた。


「こ、このままでは…」


『敵勢力、軍旗確認!』


 パイロットからの通信が入る。


『エーデルガイドの第一機動航空艦隊です!う、うわああぁぁあぁッ!?』


 突如通信が切れてしまった。


「なんということだ……」


 第一機動航空艦隊。エーデルガイドが誇る航空部隊。各空中戦艦には飛竜騎兵が数百から千程度属しており、どの騎兵も精鋭中の精鋭だと言われている。そして空中戦艦自身も何門もの主砲を搭載しており、軍艦は一撃で沈められる。この勝負の行先ゆくさきは目に見えて明らかだった。


「ブ、ブルックヤード泊地のクロアベル大尉に連絡を取れ!救援要請だ!か、彼女なら……」


 オルムスは急ぎブルックヤードに緊急通信をかける。彼女さえ居てくれれば、たとえ追い返せなくとも自分たちの撤退のための時間稼ぎくらいはできたであろう。しかし運悪く今ブルックヤードには彼女はいない。休暇でちょうどクルルカに滞在していたから…。


 ブルックヤードの事務室の無線は虚しく鳴り響き、誰にも取られることはなかった。


 そしてそれが鳴り止んだ時、オルムスが乗っていた空母はちょうど沈んだのだった…。

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