第13話 戦火の予感…

 数日後。


 ブルックヤード泊地南西約500キロの地点。


 そこには巨大な空中戦艦が何隻も並んでいた。


 空中戦艦。それは文字通り空に浮かぶ戦艦。対人類連合軍用に特化したその戦艦は上部と側面に対戦闘機用の機銃を備え、下部には海軍艦隊や陸上基地を制圧するための主砲が何門も備えられていた。そして前方には空中戦艦の最大火力であり、魔力の塊を飛ばすエネルギー兵器、魔導砲が備わっている。


 人類側を確実に制圧するために作られた空中戦艦の艦隊。その中のある1つの戦艦の中でエルフ将校が上官に報告を行なっていた。


「ブルムバーグ中佐。斥候の飛竜、3頭ともにいまだ帰還しておりません」

「そう……。敵情視察で騎兵を乗せなかったのは正解だったかもしれませんね。おそらくティルエール・クロアベルの仕業でしょう。全滅……。そう考えた方が良いでしょうね」


 階級章のついた紺色のローブをまとったブルムバーグ中佐はカップに注がれている紅茶を上品な立ち振る舞いで飲んでいた。


「しかし貴重な飛竜3頭を捨て駒同然で送り込むのは納得いきません。一頭育てるのにもどれほどの金と時間がかかってると……」

「分かってますよ。でもそうせざるを得なかったのも確かです」


 ブルムバーグ中佐はカップを置き、部下の顔を真剣な目で見つめる。


「上層部は守りの薄いブルックヤード泊地への上陸計画を立てているし、ブルックヤード泊地への攻撃を私たちに求める外の勢力も存在する。でもね、明らかに守りが薄すぎる時はそこに何かがあると考えるべきなんですよ。ティルエール・クロアベルを政敵と思ってる人たちから封じ込められてるって見方もできるかもしれないけども、南方からの攻撃に対しては重要な防衛拠点とも言えるブルックヤードをそのためだけに空にするのはおかしいと思いませんか?それでも十分と考える根拠が確かにあるはずなんです。今回の作戦からは精々訓練された飛龍数頭を始末できるだけの力があるくらいしか分かりませんでしたが……、きっと敵の上層部はクロアベルの実力を高く評価しているのでしょうね」


 ブルムバーグ中佐は席を立つ。


「少将閣下に進言しないといけませんね。本格的にブルックヤードを陥落させたいのなら部隊を小出しにするのではなく、物量で攻めるのが確実だと。クルルカ島の時は拠点防衛のための飛竜部隊しかいなかったけども、我々第一機動航空艦隊の全兵力をもってすれば、クロアベルといえども太刀打ちはできないはず……。まあ、流石に仕留めることは無理でも、撤退くらいはしてくれるでしょう。本当はクロアベルの戦闘力もちゃんと調べておきたいのですが、直近の戦闘データがあまりにもなさすぎますからね……。クルルカ島の極端なデータしかないのはツラいですね。あ、そうだ」


 思い出したかのようにブルムバーグ中佐は部下の顔を見る。


「空母小雪は今どちらにいるか分かりましたか?」


 空母小雪。それは東亜共和国海軍が誇る巨大空母、と言われている。噂では戦闘機を3機同時発着可能な大きさらしい。小雪が所属する艦隊には他にも空母が4隻あるらしく、また護衛艦などの随伴艦が30隻近くあるのだとか。しかし、その艦隊を見たことがあるものは誰もいない。


「まだ分かりません。あの艦隊、規模の割に情報が一切ない。本当に実在するんですか?」

「そうですね。私も見たことないけれども……、あると考えて動いた方が被害を最小限にできますよ」


 それからブルムバーグ中佐はその場を後にした。


「さてさて。部下を死なせないためにも、綿密な攻撃計画を立てないとね」

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