第6話 ブルックヤード泊地 3
夕方になり、大神は食堂へと向かう。食堂にはティルエールとニーアの他、泊地の整備員の姿が見えた。一応ニーアの使用人もいたが、あとで聞いたところ、数日後に来る連絡船に乗って、ニーアの実家に帰るとのことだった。
「彼がシンイチ・オオカミよ」
ティルエールが大神の紹介をし、それから他のメンバーの紹介を続けていく。泊地の職員は本当に両手で数えられるくらいしかいないようだった。
「そういや事前に聞い話だと、エルフ兵は3名いなかったか?」
「ああ。ヨナのことね。どこ行ったのかしら?ここ数日見てないのよね」
勤怠管理、大丈夫だろうか?他にもドワーフが1人いるはずだったが、その人物の姿も見受けることができなかった。
しかしティルエールは特に気にした様子もなく、「さっさと食べましょう」と食事をすすめた。
大神が座るテーブルには、ティルエールの他、昼間と同じ格好のニーアが座っていた。
ニーア・ヘルベチカ・シャウツァー少尉。東亜共和国から東のアルビナ大陸にあるアルビナ諸王連合の1つ、ヤルタナル王国に属するシャウツァー伯爵家のご令嬢だ。エルフは必ず女性なので、エルフの家系もまた必ず女系になる。シャウツァー伯爵家の当主はロベルトという男であり、シャウツァー家自身は決して純潔ハイエルフの貴族ではないが、彼女の長い耳が象徴するように、ハイエルフ特有の出自から、彼女は母親のクローンであり、当主との間に血のつながりはないと断言できる。
対するティルエールはというと、ハーフエルフなので、血の繋がった父親がいることになる。ヒト族かどうかまでは分からないが…。
「ねえねえ。オオカミさんって趣味とか持ってるの?」
ニーアに突然質問を投げかけられた。
「趣味?語れるほどのものは特にないなぁ……。暇つぶしでなら釣りいくことあるし、接待でならゴルフには付き合えるけど……」
「えー。それはなんか勿体無いなぁ。語れる趣味持ってると楽しいよ?」
「友達少ないもんでな。語る相手がいないんだよ」
ニーアは「ふーん」と切り返してから、どこかイタズラ心を抱いているような笑みを浮かべて口を開く。
「じゃあ僕がその相手になるのはどう?」
「は?」
「そのままの意味だよ。オオカミさんの話を僕が聞くの。語りたいことあったら語ってくれればいいし、愚痴りたいことがあれば愚痴ってくれればいいよ。これでも聞き上手だからね、なんでも聞いてあげられるよ?」
その言葉に大神はどう切り返せばいいのか戸惑った。
「人
ティルエールがまるで助け舟を出すかのように口を挟んだ。
「昔はこんなんでもなかったんだけどね。人を寄せ付けない雰囲気を出す子だったんだけど、根っこが寂しがりやなのか、吹っ切れてからこんな感じよ」
「ちょっと、ティル!?」
ニーアが慌てたようにティルエールの顔を見る。
どうやらティルエールの愛称はティルらしい。
ティルエール、改め、ティルは「ふっ」と笑いながら、ニーアを無視して食事を続けた。
「でもなんの趣味もないのは勿体無いわね。確かにたくさん持ってたとしても、テレビとラジオくらいしか何もないこの泊地じゃ、宝の持ち腐れになるでしょうね。でももう少し趣味があっても良かったんじゃないかしら?」
ニーアの話題を横から
「そうは言われても、今までは酒を飲むくらいしか時間を潰すことができなかったからな…」
「若い頃は何やってたのよ」
「今だって若いぞ!まだ27だ!」
そう抗議をしつつ、「あっちこっち仕事で移動しまくってたから趣味なんて作る暇もなかったよ」と返す。
「本当に
ヘルベフォルツとは人類連合軍の構成国の一つで、大神の故郷であり連合軍の本部のある東亜共和国の西側にあるラインツフォンド大陸にある社会主義国だ。ヘルベフォルツは西部にオークの国オークランドと接しており、この世界大戦で国境沿いはオークとの戦争で戦火に包まれていた。
ティルの物言いがまるで非難しているかのように感じた大神は一瞬ムッとなったが、そこは噛み付かずに「ほっとけ」とだけ返した。
「じゃ、じゃあさ、ここくる前は具体的にどんな仕事してたの?」
若干険悪になりつつあった空気を変えようとニーアが口を挟む。大神はしばし逡巡してから意地悪そうにニヤリと口角を上げた。
「機密事項だ」
「なんだよそれー!」
それから皿が空になるまで、取り止めのない話をしつつ、その日の夕食は終えることとなった。
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